映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

2008-01-01から1年間の記事一覧

試写室だより『懺悔(ざんげ)』 <br>辺境の映像詩人、テンギス・アブラゼを読む <br>金子 遊

カフカース映画 2008年8月にグルジア軍が南オセチアに侵攻し、ロシアと戦時状態に入ったとき、虚をつかれたような感じがした。北海道より小さい国土に約500万人が住む小国が、強大なロシアを相手に正面からことを構えたからだ。たしかに、グルジアがパンキシ…

「脚本家 荒井晴彦」特集上映<br>荒井晴彦インタビュー

『赫い髪の女』(神代辰巳監督)や『遠雷』(根岸吉太郎監督)、『Wの悲劇』(澤井信一郎監督)や『ヴァイブレータ』(廣木隆一監督)などの脚本家であり、「映画芸術」の編集発行人である荒井晴彦の特集上映が12月6日から川崎市市民ミュージアムで開か…

試写室だより『大丈夫であるように ―Cocco 終わらない旅―』『40歳問題』 <br>“J-POPドキュメンタリー・レビュー”ウィンター・フェス‘08-‘09<br>若木康輔(ライター)

CDが出るたび必ず買う国内の新進が、奥田民生の他にいない。J-POPブーム華やかなりし90年代は、僕にとってはいささか寂しい時期だった。あくまでもメジャーしか知らないミーハーの個人見解だが、ミスチルもオザケンも真心もブランキーもエレカシも…

荒井晴彦の特集上映はもうすぐ!

掲示板でも告知しました通り、12月6日(土)より川崎市市民ミュージアムにおいて映画芸術の編集・発行人である荒井晴彦の特集上映が始まります。映画芸術DIARYではこの上映に際して、荒井晴彦へのインタビューを行い、近日中の掲載を予定しておりますが、改…

試写室だより『ノン子36歳(家事手伝い)』 <br>鉄の鎧が脱げるまで <br> 深田晃司(映画監督)

丘の上のキ○ガイ学校。 これは、現在の日本映画界を支える多くの才能を輩出(排出?)している大阪芸術大学に、地元の人々が与えた呼称であるらしい。 この話を僕にしたのは、やはり大阪芸大出身の友人H氏であったと思う。例えば、大学に近づくにつれ景色の…

試写室だより『中華学校の子どもたち』 </br>言葉が形成されるとき、民族もまたつくられる<br> 金子遊(映画批評家)

中華街と中華学校 2009年に横浜が開港150周年をむかえるが、それは横浜中華街が同じだけの年輪を重ねてきたことを意味する。中華街を訪れる観光客は増えつづけているが、その形成の歴史を知る人は意外と少ない。横浜中華街の形成のうらには、欧米諸国による…

『うん、何?』<br>宇都宮睦登(プロデューサー)インタビュー

『白い船』(02)に続く「しまね三部作」の第二弾、錦織良成監督の新作『うん、何?』は映画の製作から公開までを地方自治体が中心となって行った100%地方映画。ヤマタノオロチ伝説の伝承地である島根県雲南市を舞台として、故郷に根を張って暮らす人たちの…

試写室だより『青い鳥』 <br>原稿用紙5枚の呪縛 <br>近藤典行(映画作家)

まずどうやって、どのタイミングで、主人公の顔を画面に登場させればよいか? 本作で監督デビューを飾った中西健二監督は、初監督の力みとは無縁の落ち着き払った手つきで、丁寧に描写を積み重ねることにより、その時を引き延ばす。キャメラは冒頭から、ゆっ…

『ブタがいた教室』<br>前田哲監督インタビュー

食育やいのちの問題が議論されている現在ですが、1990年に実際に小学校でブタを育てて卒業の際にみんなで食べようという教育を試みた教師がいました。その教師と生徒たちの1年間を追ったテレビドキュメンタリー(1993年放映)は多くの賛否を招きましたが、…

映芸マンスリーVOL16「背徳映画祭」傑作選 <br>しまだゆきやす(監督/イメージリングス代表)トーク

かつて「映画監督」といえば、東宝、東映、松竹、日活といったメジャーの映画会社に所属する監督のことを指した時代がありました。しかし、ほとんどの監督がフリーランスで活動している現在にあって、商業映画/自主制作映画、メジャー/インディペンデント…

「映画芸術」最新号発売!!

「市川崑の追悼をやらないのになぜ土本典昭、山口清一郎、金子正且、三村晴彦の追悼をやるのか。四人に何の共通点も無い。四人が亡くなったと聞いて、俺があの時代を思ったのだ。記録映画で新左翼に伴走していた土本典昭、ロマンポルノ裁判の被告にされたこ…

映芸マンスリーに関するお知らせ

映画芸術が企画制作する上映会「映芸マンスリー」はこれまで毎月第2月曜日を基本に行ってまいりましたが、11月以降は3ヶ月に1回、本誌発売翌月に開催することとなりました。名称も「映芸シネマテーク」と改め、よりいっそう充実したイベントにしたいと…

試写室だより『ロック誕生』 <br>ロックがまだ若かったころ <br>金子遊(映画批評家)

ロックの誕生 ロックの誕生はいつだったのか。 植草甚一の『ニューロックの真実の世界』によれば、ロックンロールの誕生は1954年のオハイオ州クリーヴランドでのことだった。あるラジオDJが、黒人むきに製作されたR&Bのレコードを白人の十代にむけてか…

緊急座談会「『映画芸術DIARY』よ、どこへ行く?」<br>映芸ダイアリーズ

インターネットの広がりに伴い、誰もが映画について自由に発言することが可能になりました。その結果、映画そのものだけでなく、映画について語られる言葉もまた供給過剰の状態に陥っています。こうした状況の中にあって、観客と作り手と媒体はどのように映…

脱映画批評『七夜待』<br>果物の皮を剥くように<br>村松真理(作家)

この作品についてなにか語ろうとするなら、本当は睡眠をたっぷりとって、乾いた肌を潤し、骨や関節に凝り固まった力を抜いて、やさしい目でものを見られるようになってから――といきたいところだが、実際は深夜で都内の散らかったワンルームの隅、昼間のデス…

試写室だより 『真木栗ノ穴』『ボディ・ジャック』<br>秋のオルタナ街道を歩く~日本SF(すこし・ふしぎ)映画狩り<br>若木康輔

「映画評ってのは、(その作品やジャンルが)好きなのに書かせるだけじゃ面白くなっていかないんだ。たまには、あの映画じゃノレない、書きたくないって言う奴に無理に書かせてみろよ」 夏がそろそろ始まる頃、本誌発行人がサイト担当・平澤青年へ怖い知恵を…

荒井晴彦の映画×歴史講義 第二回<br>『天安門、恋人たち』(06)×天安門事件

脚本家・荒井晴彦が映画とそこに描かれた歴史的事件について語る好評連載「荒井晴彦の映画×歴史講義」。二回目に取り上げる映画は、中国映画第六世代の旗手と言われるロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』。自らも学生として天安門事件に参加した経験を持つ…

試写室だより『東京人間喜劇』<br>映芸ダイアリーズ

本サイトで試写室だよりを執筆されている深田晃司監督の新作『東京人間喜劇』が10月11日(土)からアトリエ春風舎にて公開されます。本作は深田監督が所属する劇団「青年団」が制作から興行までを行い、オールキャストを「青年団」の俳優によって固めるとい…

映芸マンスリーVOL15『茨の同盟』<br>吉田和史(監督)・野村正昭(映画評論家)トークショー

「映芸マンスリーVOL15」の上映作は、女優・沢田亜矢子さんとの離婚騒動でマスコミのバッシングに遭い、その後は歌手デビュー、ホスト転身、整形手術などの話題を振りまいてきた「ゴージャス松野」こと松野行秀さんを追ったドキュメンタリー『茨の同盟』。本…

『ブリュレ』<br>林田賢太(監督)・早坂 伸(撮影)インタビュー

10月25日から渋谷ユーロスペースでレイト公開される『ブリュレ』は、連続放火事件をきっかけに再会した双子の姉妹が日本を縦断して逃避行を続けながら互いを求め合おうとする、愛についての物語です。そしてこの映画は、自主制作ながらも全国各地でのロケを…

試写室だより『フツーの仕事がしたい』<br>反=フツーの場所からの報告<br>CHIN-GO!(映画感想家)

必見、だと思った。現代の労働状況は、このドキュメンタリーが提示することごとに無関心ではいられないひとびとを数多くつくっているようだ。 いま、「蟹工船」とかプロレタリアート文学がワーキングプア文学と呼び替えられて再読再評価されているそうだが、…

試写室だより『コドモのコドモ』 <br>みんな「コドモのコドモ」なのだから。 <br>加瀬修一(ライター)

『コドモのコドモ』は、子供が本来持っている「生きる力」をもう一度見直し、真摯に命と向き合おうとする。とても誠実な作品だ。制作者は「小学生が出産する」というショッキングで露悪趣味になりかねない題材を、寓話として描こうと試みている。 しかし観終…

『幸福 Shiawase』<br>小林政広監督インタビュー

昨年、『愛の予感』でロカルノ映画祭グランプリを受賞した小林政広監督の『幸福 Shiawase』(06)が明日、9月20日からシネマート六本木にて公開されます。本作は、北国のロケーションやミニマムな人物配置というこれまでの作風を踏襲しながら、白夜の町という…

試写室だより『幸福 Shiawase』 <br>映画の余白を埋めるもの <br>深田晃司(映画監督)

小林政広監督の『幸福』は、誰かを愛することはそれ以外の誰かを不可避的に不幸にする世界の無常を、ややセンチメンタルではあるものの、しかしこれ以上ないぐらいの簡潔さで提示して見せた映画である。 北海道の片田舎の町にスポーツバッグひとつで降り立っ…

脱映画批評『消えたフェルメールを探して』 <br>フェルメールと〈創造〉の断片の彼方へ <br>髙尾すずこ(編集者)

「合奏」という出発点 左手前にはペルシャ絨毯がかかったオーク材のテーブル、白と黒の幾何学模様の床には、均整と調和の象徴である弦楽器がある。絵の奥の壁近くでは、チェンバロを弾く女性と、譜面を手にして歌う女性にはさまれて、こちらに背を向けた男性…

試写室だより『青空ポンチ』 <br>バカにつける爆薬 <br>近藤典行(映画作家)

真っ暗な画面から馴れ馴れしいオバちゃんの話しかける声が聞こえてくる。「帰ってきたんかぁ、カツオちゃん。ほんで東京どうやったん?ええもんやるわ、ゼリーや。持っていきまい」。次の瞬間、主人公・カツオ(石田真人)が姿を現し、ゆっくりと歩き出すと…

『東南角部屋二階の女』<br>池田千尋(監督)インタビュー

日本初の国立映画大学院として設立された東京芸術大学の映像研究科。映画芸術DIARYでは昨年5月、同科の一期生が修了作品展を開いた際に、監督領域、脚本領域、製作領域の3名にお話を伺いましたが、その時、インタビューに応じてくれた大石三知子さん(脚本領…

試写室だより『イントゥ・ザ・ワイルド』 <br>いつどこでいくつになっても、〈荒野〉を目指せ。 <br>加瀬修一(ライター)

1992年の春、クリス・マッカンドレスはアラスカの荒野へ分け入った。そこで見つけた奇妙なバス。彼はここを拠点に「何ものにも縛られない完全な自由」を目指す。アラスカの大地は、どう彼の魂を解放したのか。 原作『荒野へ』は、登山家でジャーナリストのジ…

荒井晴彦の映画×歴史講義 第一回<br>『日曜日には鼠を殺せ』(64)

今は亡き今村昌平監督が設立した日本映画学校では、脚本コースの卒業生を対象にした勉強会が毎月開かれています。講師を務めるのは「映画芸術」の発行人である荒井晴彦と、『無能の人』(91)や『地雷を踏んだらサヨウナラ』(99)などで知られる脚本家・丸…

インド映画特集上映「ボリウッド・ベスト」<br>松岡環(字幕翻訳)インタビュー

インド映画は1970年代に世界一の製作本数となり、21世紀に入ってからは年間製作本数が1000本を超えることも珍しくない。その多さはインド内で映画製作に用いられている言語数の多さに起因しているのだが、もっとも多く製作されるヒンディー語映画の本拠地ム…