レポート
触れあうようで、触れあわない距離 神田映良(映画批評) 「顔」と「ノイズ」の映画。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で強烈な拒絶のオーラを放っていた宮﨑将の顔は、今回、この世界の虚無を吸いとり、世界の表情のようにして、作品を支えている。ぼや…
「映画芸術」誌の2011年日本映画ベストテン&ワーストテンが決定しましたので、ご報告いたします。配点の詳細および選評については1月30日発売の本誌438号に掲載されます。 ベストテン 1 大鹿村騒動記 (阪本順治監督) 2 サウダーヂ (富田克也監督) 3 …
こともあろうに2011年3月11日に先行お披露目上映が予定されていたため、上映の延期を余儀なくされた筒井武文監督作『孤独な惑星』だが、その日の非常事態に直面しても尚、主演の綾野剛の舞台挨拶を一目見んとする若い女子群は列を乱そうとしなかったし、5月…
シンポジウム「デジタル化による日本における映画文化のミライについて」の採録第2回は、工藤雅子さんによるヨーロッパの現状報告。世界で同時進行している映画館のデジタル化とそれに伴うVPF問題を、ヨーロッパ諸国はどのように受け止め、どのような方策を…
近年、急速に進む映画のデジタル化だが、ここへ来て一気にその問題が表面化している。というのも、作品の供給がフィルムからデジタル素材へと急変する中で、デジタルの上映設備を持たないミニシアターが存続の危機に立たされているからだ。さらに、デジタル…
ヨーロッパ映画というと、眉間に皺を寄せて鑑賞する「アート」というイメージが一般的なのかもしれないが、今回上映された作品は、そうしたイメージを破る、愉しむものとしての映画が多かったように思う。ポスターやパンフレットの表紙に使われているのも、…
第18回目も無事に終了した大阪ヨーロッパ映画祭。メインの会場となったホテルエルセラーン大阪は、白を基調とした、清楚な印象。上映が行なわれたエルセラーンホールは、木を多用した温かみのあるホールで、白とガラスによる潔癖な雰囲気のあるホテルの中に…
風景映画とドキュメンタリーの臨界点 金子遊(映像作家・脚本家) トップランナーとして どのような芸術ジャンルにおいても、トップランナーと呼ばれる作家は、宿命のようなものを背負うらしい。松江哲明が著書「セルフ・ドキュメンタリー」で振り返った10年…
伊月肇という、ひとつの映画の希望について。 持永昌也(ライター) 太陽の塔。それは、70年に開催された日本万国博覧会の象徴であり、現在も撤去されることなく、持て余されたかのような昭和のシンボルだ。 61年生まれであり、万博の開催時には吹田市千里丘…
かつてチャップリンはトーキーに反対し、映画は純粋に視覚的な芸術だと主張したという。このところ相次いで公開されている3D映画に対しては今のところ、映画は純粋な平面の芸術だとして反対する声は聞かれないが、それは映画の3D化が受け入れられたから…
10月13日に閉幕した山形国際ドキュメンタリー映画祭2011では、初めての試みとして「ヤマガタ映画批評ワークショップ」が行われた。ドキュメンタリー批評に意欲のある書き手を募り、クリス・フジワラ、北小路隆志の両氏が講師を務めたこの企画。日本語と英語…
9月2日に開催された映芸シネマテーク『親密さ(short version)』上映後の濱口竜介監督・映画評論家の荻野洋一さんのトークを掲載(開催時の告知)。テクストへの繊細さにおいて際立つ御二人が、言葉を交わし合う。演劇と映画、会話劇をめぐる対話から、現…
B5判、184頁、1500円 【特集 原田芳雄、追想】 鼎談:石橋蓮司×佐藤浩市×阪本順治 「その広々とした人格の間に」 インタビュー:桃井かおり 「どんなに無様なときでも生きるほうを選択させてくれた 芳雄は、そういう人魂だった」 座談会:宇崎竜童×山崎ハコ×…
俺は田舎生まれボーイスカウト育ち 悪そうな奴は大体ニガテ 若木康輔(ライター) 頭でこさえていない映画は、いいものだ。なにしろセリフのやりとりが絶妙で、細部のあちこちがおかしかったり、わー、キツイ、とゲッソリしたり。互いにそっぽを向いた群像劇…
前回更新してからあっと言う間に一年と半年が過ぎてしまった。その間、映画を一本作り地道な上映活動を続けてきた。ありがたいことに賞なんぞも頂き、映画祭を駆けずり、チヤホヤされる時間は増えたものの、息切れしてきたのでふと立ち止まって身辺を見渡す…
とある刑務所の雑居房・204房の面々は、受刑者でありながら妙に能天気に暮らしている。新入りの栗原健太だけは浮かぬ顔で、房そのものに慣れない彼には、自分を取り囲む明るい面々もどこか不気味に映じる。陽気で丸々とした通称「チャンコ」の甲高い笑い声が…
B5判/192頁/増頁特別定価1500円
今週末の7月23日(土)から8月5日(金)まで開催されるCO2東京上映展2011。今泉かおり監督『聴こえてる、ふりをしただけ』(選考員特別賞、女優賞を受賞) 、リム・カーワイ監督『新世界の夜明け』(観客賞受賞)のほか、特別上映作品として万田邦敏監督『面…
乱雑にカメラが床に据えられると、その当のカメラに向かって何やら過剰な自己アピールを始める怪しげな男のすがたが大きく映し出される。夜のマンションと思しき一室の、限られた照明のなかでこちらを見据えるサングラスの男は、ひとりでにテンションを上げ…
多くの方は無私の熱意でやっていると知っている。尊重もしている。しかし、いち物書きとしては、新しい才能を大きな声で喧伝することにどうも戸惑いがある。急いで作家に仕立てられて若いうちに潰れた者を(別分野を含めて)何人か間近に見てきたせいで、慎…
この映画は、全編を通し、四人の登場人物によってのみ描かれている。きっかり四人だ。それ以外の人間が画面に映ることはほぼない。ユカコ(加藤めぐみ)、その同僚で彼氏でもあるシゲヒサ(佐藤博行)、同じく同僚でシゲヒサの浮気相手でもあるサエコ(前川…
現実を切りとる、映像という媒体。「現実」を写している面と、写す者、或いは編集者の意思によって切断しているという、この両面が、特に報道やドキュメンタリーでは常に問われる。かつてアンドレ・バザンは、『失われた大陸』の、白人の到来を待つ野蛮な首…
4月27日から5月1日までドイツのフランクフルトで開催された世界最大級の日本映画の祭典「ニッポンコネクション」に初参戦して来ました。 偶然にも今年の「ニッポンコネクション」(以下、ニチコネ)は監督作の『進化』の他、録音で参加した『ヘルドライバー…
自分の原則として、映画評は試写で拝見したもののプレビューのみにしている。公開が始まった作品まで書いたら、歯止めが利かなくなる。僕は作文中毒者なので、なんでも好きに書いていいと言われると、ホントにサルのようにいつまでも書き続けてしまう。 その…
B5判/192頁/増頁特別定価1500円 【日本映画新作】 『大鹿村騒動記』 インタビュー;原田芳雄+岸部一徳 インタビュー;阪本順治 論考;新城勇美「おもしろうてやがてかなしき喜劇かな」 『マイ・バック・ページ』 座談会;絓 秀実+佐伯俊道+青木研次+稲…
さる2月22日より一週間にわたって開催された「第一回こまばアゴラ映画祭」。評論部門ワークショップに講師として参加した皆川と申します。他講師二名は、映画芸術ダイアリー執筆者である映像作家の金子遊さん、放送・構成作家の若木康輔さん。三人の中でも…
若木康輔(ライター) 今回は監督がその道の筋金入りとよく分かっているので、敬意を表する意味でも(具体的なストーリーなどの解析は他の人にお任せして)、作り手の特長を過去の事例に重ね合わせるシネ・クリティック対応の短評をやってみようと思う。 『…
各作品の上映後の質疑応答やセレモニーでは、当然の事ながら通訳を介してやりとりが交わされたのだが、客席では、通訳を待たずゲストの話に直接笑い声を上げる方もいて、舞台のみならず客席もまた多言語の空間となっていたようだ。何度か観客から、作品内で…
3月5日から17日に渡り開催された、大阪アジアン映画祭(以下OAFF)。第6回を迎えた今年度からはコンペティション部門が新設され、才能の発掘の場としての在り方がより高まった。複数の会場で同時並行的に開催されたOAFF。開催期間中、大阪は立体的な映画空間…
3月上旬まで地方局の番組の仕事で仙台に数日いたばかりだった。11日以来なにに手をつけても落ち着かない。義援金を振込に行くぐらいしかまともな活動ができない。知人友人の家族が被災していた。おそらく少なくない数の方と同様、(とても映画どころじゃな…