『KIDS』は乙一の原作を映画化した、ファンタジーホラー人間ドラマといった感じの作品です。
人の傷を自分の身体に移植させる超能力を持つ小池徹平がある時街にやってきて、粗暴で喧嘩早い玉木宏と出会います。玉木は小池の特殊な能力を偶然行きつけのダイナーで目撃し、興味を持ちます。
二人は保護観察下にある者同士で、実は小池には家庭を巡る暗い過去があり、それとも関係して彼は自分の特殊な能力を使って他人を癒していこうとします。
いつも二人が行くダイナーで働く栗山千明にも暗い過去があり、それが顔に残ったままなので小池は取り除こうとするのですが……。
(C)2008『KIDS』製作委員会
実は小池徹平、玉木宏、栗山千明主演、というキャストからして、映画を見る前は「どうせ昨今流行のイケメンさんで売る、よくある泣ける青春恋愛映画ってやつだろう」と思っていましたが、しかしどうしてどうして、なかなか繊細に描かれた映画になっていました。
派手な設定も出てきますが、それにめげずに、意外なほどにそれぞれの人物の心理描写や事情がきちんと描かれていて、大雑把な描写になりがちなこの手の題材のものにしては随分と丁寧に素描されています。
少なくとも私は、小池が<親に愛されない>という絶望を抱えながら、自己犠牲的な博愛性と自己破滅的な絶望の狭間にいて、その上で他人の傷を癒そうとしているのだ、ということがよくわかりました。
それはきっと小池と反対に、表面的には親を否定していても実は慕っていて無意識のうちに信頼関係が築けている玉木の目を通して小池が描かれているからかもしれません。
また栗山千明が自分の傷を小池に除去してもらった途端に、それまでいいムードだった小池と結ばれるでもなく、どこかへ勝手に行ってしまい、自分の新しい人生を生き直そうとする、という展開にも綺麗事だけが描かれているわけではない必然が感じられます。
確かに最後まで小池と玉木と栗山は仲間的に一緒にいますが、ただの友情や恋愛感情だけで繋がっているわけではなく、それぞれの事情や複雑な問題が絡み合って出会ったり別れたりしているのでしょう。
(C)2008『KIDS』製作委員会
クライマックスの大きな事故のシーンでは、小池は瀕死の状態になりながらほとんど自殺行為に近い感じで他人の傷を自分の身体に移植していきます。
それを見て玉木も自分の身体に傷を刻み込むことに協力していきますが、この時玉木は、小池のこの博愛的な自己犠牲の裏に、愛されない故の破滅的な絶望感が内在していることを見抜いています。
だから小池に「身内以上に赤の他人が人を思いやることもあるのだ」ということをここで必死に伝えようとします。
二人は徐々に身体的な限界に達していくのですが、ここで彼らに助けられた被害者たちの感謝が大きく連携していきます。
このような描写は確かに一見フィクションでしか有り得ない綺麗事にも見えます。しかし現実に起こった大きな事故や天災の際に、それまで全くの他人同士だった人々が、命懸けの援助をし合って生き延びることが出来たという現実が多くあるのも事実です。
この映画の、特にこのクライマックスシーンには、緊急の現場でこそ不意に湧き上がる、<赤の他人同士の連帯の気持ち>という心理の流れが、派手な設定に流されて大雑把にならず丁寧に素描されていて秀逸です。
流行の映画っぽい外観とはちょっと違った、そんな丁寧さに魅力がある作品です。
text by 大口和久(批評家・映画作家)
『KIDS』
監督:荻島達也
原作:乙一
脚本:坂東賢治
音楽:池 頼広
全国東映系にて公開中
公式サイト http://avex.jp/kids/