映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

■映画館だより『連続不倫2 姉妹相姦図』<br><春の本格ピンク映画>を見た

 1月17日午後、新東宝映画のプロデューサーである福原彰の監督第二作『連続不倫2 姉妹相姦図』を新宿国際名画座で見た。あいにく立て看板には「監督・深町章」と間違って描いてあったが、れっきとした福原彰の監督作だ。でも、もしピンク映画の熱心なファンがクレジットを確認せずに見る「めかくし鑑賞」をしたとしても、すぐに深町作品じゃないと気が付くだろう。それだけの個性というか、ガンコな雰囲気がすでにデビュー作と新作の二本に共通している。人はそれを喜んで作家性と呼ぶ。僕は性急に新進監督を作家として称揚することにやや反対だが……でも、ほんとにそう呼んでいいのかもしれない。

 見た、とスラッと書いてはいるが、ピンク専門館に入るのはかなり久しぶりのことで、実は見ようと思い立ってから入るまでは、けっこう緊張した。金を払って緊張しに行くなんてバカバカしいから一度はよそうかと思ったぐらいだ。そこを押してまでどうして見たかと言うと、理由は2つある。

1.去年の11月、上映会「映芸マンスリー」で、福原彰のデビュー作『うずく人妻たち 連続不倫』(原題:ETUDE)を面白く見た。上映後のトークで準備中だと話題に出ていたのが、本作。第二弾を思わせるタイトルなので、誰に頼まれたわけでもないがフォローしたくなった。

2.ピンク映画を見る映画ファンは、専門館がまるで慣れっこでマメに新作を見続ける人と、非専門館での企画上映やCSの放映などでやっと接する人とに分かれ、中間の層が足りないんじゃないか、広く浅くの人間がたまに専門館に入るぐらいの例が増えていいのでは、という以前からの考えに基づき。(女性はもちろん後者で結構なんです。)

連続不倫2写真2.jpg

 なので、まず、久しぶりに入ったレポートを。

 やはり都内のピンク専門館(エクセス系が主)で、僕は十年以上モギリのアルバイトをしていた。ドアの隙間から漏れる女優さんの喘ぎ声を聞きながらラーメンを啜り、野田高梧の「シナリオ構造論」なんか読んでた青の時代、思い出すとちょっとだけいじらしいネ。

 だから今さら緊張するのもおかしな話なのだが、従業員として館内をウロウロしているのと、いちげんで見る立場は違う、と勝手に構えていた。数年のうちに、もともと臆病な人間がさらにスクエア度を増してしまっていたようだ。

 ところが、入ってみて拍子抜け。国際の地下は、僕がバイトしていたところのような、いわゆるハッテン場ではなかった。専門館に一度入ってみたいけど……とためらっている方が予想していることはですね、少なくとも僕のいる間、場内では一切ありませんでしたヨ!

 深町章監督『エロ探偵 名器さがし』(2004年作品を改題)と二本続けて見たが、その間、お客さんの数は途中の出入りを含めて三十人ちょっと。無職っぽい人、サボリの営業マン風、それにマイナー・シネフィルと思しき人(僕もか?)、どれも一人で来ている中年以上の男性。みな淡々と見ている雰囲気と地下のつくりがなんとも懐かしく、現金なもので、ドキドキしながら入ったくせにすぐ古巣に戻ったような居心地の良さを覚えた。久しぶりに映画館に入ったなあ……としみじみ思いました。いや、どこでも好きなんだけど(シネマヴェーラ渋谷なんて大好感だけど)、僕の育ちの問題として。

「抜き差しならない男と女の運命の再会……そして破局。同じ一人の男を愛した姉妹を襲った悲劇の結末は?」(本作ポスターの宣伝文)

「二番煎じにならないよう気をつけつつ、敢えて一作目と同じテーマでやってみるつもりです。男女の運命的な再会とか、人間関係の抜き差しならないところなんかですかね。それで今回は姉妹の話にしたんです。妹の旦那とお姉さんができちゃうという」(本サイトでの福原彰のインタビューより)

 『連続不倫2 姉妹相姦図』は、まさに以上のようなストーリーの映画だった。前作とはキャストも設定もまるで違うが、別れた不倫相手と数年後、相手の伴侶が一緒にいるときに偶然再会してしまうシチュエーション自体は変奏によって繰り返されている。 

 不倫メロドラマというのは、本来、かなり厳しいところを描くものなのだなあ……と改めて考えさせられる映画だった。年末、近所の文章仲間の忘年会で聞いた、年長の友人の言葉を思い出した。いつもはとても温和でお子さんが二人いて幸せそうなその人は、奥様と別の女性に惹かれたとしても「そういう想いはね、胸の中でギュッと握りつぶすんです。家族を裏切ることは、人殺しと同じなんですよ」と呟き、そこに含まれた烈しさに、独り者の僕はたじろいで相槌も打てなかったのだ。本作では、妹の旦那が、姉との関係を正直に妹=妻に打ち明けたいと言った途端、姉は「あの子を殺す気?」と問う。福原彰も同じ烈しさで、三人の関係をギリギリと絞る。

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 周知の通り、ピンク映画は数回のカラミのシーンが制作のルールであり、存在理由でもある。前後のドラマで作り手が自分の歌を歌おうとし過ぎて、肝心のカラミのシーンが取って付けたようになると見ていてもシラけてしまう。やはり、ドラマの必然としてカラミを出してもらったほうが見応えがある。ただ、一緒に見た『エロ探偵 名器さがし』のようなコメディとなると話が別で、どこかの名探偵そっくりの銀田一が犬山家の当主を腹上死させた名器の持ち主を探す……という筋だから、取って付けたようなカラミがかえってのんきで楽しく、パロディとして光ったりするのだが。

 その点、徹底してシリアスな本作では、のっぴきならない裏切りの行為として男女が抱き合う。カラミが濃厚なほど、姉妹を演じる女優さんの肢体が綺麗なほど、人間関係のサスペンスは高まり、抱える罪は重くなる。つまり、劇の芯が太い。山火事がなかなか消えない、と告げるテレビのニュースが、ライターの火、消防車のサイレン、天然ガスの煙突が夜に吐きだす炎、と情念の比喩として連鎖していき、しかも目立たず描き込まれているのも上手くてスマート。冬の硬い空気と、室内で対峙する男女の息詰まるようすに、(カラミのあるベルイマン……)というフレーズが一瞬、脳裏を走った。大げさかな。でも、ほんとにそう言いたくなる魅力があるんだ。

 しかし、その裏切りは許されないもの、と三人が、いや物語が終盤のモラルを選択した途端、ドラマがどこに着地すべきか迷い出したように見えるのは何故だろう? 夫をついに許さない妹=妻からどんどん感情移入が離れていくのを僕は不思議に思った。妻の不倫を全て許す、と決めた夫の笑顔が逆にゾッとなるほど怖くて忘れ難い(マンスリーのトークでもディスカッションの的となった)前作の終盤と比べると、余計に考えさせられる。裏切りを描くほど面白くなり、潔癖な行動の扱いほど厄介になる映画というメディアって……と、存在論にまで話が及びそうになるが、さすがに手に余るので、この辺で。

 ピンク映画なのに面白い、じゃなくて、ピンク映画ならではの面白さを教えてもらえる新作を、久しぶりに専門館で見て有意義だった。映画館だよりでした。

text by 若木康輔(放送ライター)

『連続不倫2 姉妹相姦図』

監督・脚本:福原彰

プロデューサー:深町章

撮影・照明:清水正

主演:速水今日子 淡島小鞠 千葉尚之

製作・配給:新東宝映画

2008年

【公開情報】

2月6日~  高知小劇場

2月8日~  上野オークラ、横浜光音座

2月16日~ ニュー小阪座・大阪

2月20日~ 長野商工会館

2月23日~ 上六シネマ・大阪、岡山第一ニシキ座

※すべて1週間上映