カフェブームと言われて久しい。個性的な癒しの空間や新しいライフスタイルが提案され続け、コーヒーは最も身近な飲み物となった。しかし1杯のコーヒーがどういう成り立ちで目の前にあるのかを知る人は少ないのではないだろうか。
『おいしいコーヒーの真実』は、コーヒー豆の原産国の一つエチオピアのコーヒー農家の厳しい状況と、その改善の為にコーヒー豆の「フェアトレード」を求める農協連合会代表タデッセ・メスケラの活動を通して、コーヒー産業が抱える企業、生産者、労働者、消費者の問題を描いたドキュメンタリー。
「フェアトレード(公正取引)」とは、発展途上国で作られた作物や製品を、公正な価格で継続的に取引きする事で、生産者や労働者の生活改善や自立、環境保護を支援する国際協力の新しい形態である。
コーヒー豆は石油に次ぐ巨大な国際的貿易商品でありながら、コーヒー農家は貧困に苦しんでいる。支払われる代価が低すぎるからだ。ある青年は懸命に働く父親の姿を見て、「こんなに働いても暮らしが楽にならない、コーヒー栽培なんて継ぎたくない」と言う。父親はそれでもコーヒーを作る。「何も10倍、20倍のお金が欲しいわけじゃない、贅沢がしたいわけじゃない、子供を学校にやれて、最低限の暮らしがしたいだけなんだ」
タデッセ・メスケラは、まずエチオピアのコーヒーのおいしさをセールスした上で、「フェアトレード」の必要性を説いて行く。もちろん反応は様々だ。彼は言う。「私たちの願いは、消費者が自分たちの飲んでいるものについて理解してくれることです。知識さえ与えられれば、消費者は変化をもたらすことができる。それはなにもコーヒーに限ったことではなく、安値で売買されているすべての生産物においてです。この安値のおかげで、生産者は大きな影響を被っているのです」
大手衣料・生活ブランドの安い商品、100円ショップや激安スーパーに支えられた生活。MADE IN JAPANを見つける方が難しい。確かに助かっているけれど、手に取った製品の裏側にはこの問題が拡がっている。それは「フェアトレード」だけで解決されるものではないかもしれない。グローバル資本主義、投機マネー、人種差別、経済格差、労働格差、色々な問題が複雑に絡み合っている。ただ「フェアトレード」はハッキリと考えるきっかけをくれる。これは遠い場所の話ではない、今すぐ目の前にある僕たちの問題なのだと。
そしてそれを知ったならすぐにできる事がある。まずは「怒る」こと。その怒りがネットの書き込みや飲み屋の愚痴で済まなくなった時、本当に行動するのではないだろうか。
text by 加瀬修一
監督・プロデューサー:マーク・フランシス/ニック・フランシス
編集:ヒュー・ウィリアムズ
音楽:アンドレアス・カプサリス
出演:タデッサ・メスケラ、他
2006年/イギリス・アメリカ/78分
字幕監修:辻村英之
配給・宣伝:アップリンク
5月31日(土)~渋谷アップリンクⅩにてロードショー公開