正直言いまして実に興味を引かないタイトルです。
しかしこの映画は主演が近作『恋愛適齢期』がそう悪くもなかったダイアン・キートンであること以上に、監督がマイケル・レーマンであることにちょとだけ期待を抱きました。
かって『ヘザース』や『アップルゲイツ』などで飛ばしていたレーマンも今やロマンチックコメディの名手と言われて久しいわけで、それでこの邦題じゃあ、まあそう期待するな……ってことかなとも思いましたが……。
お話はダイアン・キートンが3人の娘を女手一つで育ててきて、長女と次女は幸せな結婚をしてくれたが、後は末っ子の娘が残ってる状態。
自分のように旦那がいなくなってから生涯一人で生きて欲しくはない、という子供思いの母らしい気持ちから、キートンは娘の結婚相手を探そうと思い余って、なんとネットの出会い系サイトに<母親が娘のボーイフレンド探し>という広告を出すのですが……。
結果から申し上げてマイケル・レーマン大復活!!とまでは言えないものの、でもなかなか下世話で、レーマンらしいとこも随所にある喜劇ではありました。
笑うと下品な顔になるので恋人がなかなか出来ない三女、だとか、三姉妹が集まると夫婦のSEXの按配や具合についてばかり話し合っているまるでエロオヤジみたいな描写などちょっとだけレーマンらしいところが出てました。
そもそも母・キートンが出会い系サイトに娘の結婚相手の募集を出すというその設定から、応募してくる男のほとんどは妙に変態じみた連中ばかりという辺りもレーマンらしいとも言えますが、しかしそこはたとえばファレリー兄弟ほどの飛ばしっぷりはなくかなり抑えた描写となっています。
一番目を引いたのは、母の子供への愛情から良かれと思って行った花婿募集がわりと良い結果になりかかっていながら、それを知らずに受けてる娘の方は、何のわだかまりも屈託もなく平気で二股をかけていることです。
この娘の倫理を欠いた行動が後半に混乱をもたらす原因となるんですけども、その二股描写をレーマンが実に明るく幸福に描いているムードが奇妙に皮肉で面白かったです。
まあしかし今時NHKで人気の「デスパレードな妻たち」でも多少のエロ・グロネタは盛り込まれていますから、この程度でそう諸手を上げてレーマン復活などというほどの映画になっているとは言い難いですが……。
後半は、そのご都合主義的でお定まりな展開と幕引きからキートンの娘を想う「母の愛」みたいな芝居まで、およそ予測されうる展開通りの推移を見守るほかはなかったです。
やはりこれはダイアン・キートンのプログラムピクチャーじみた恋愛喜劇ってやつか……という域を上回りも下回りもしていない出来映えと言えましょうか。
ただ残念なのは、LAセレブ御用達のCakesDivasのゴージャスなケーキを出してくるだけで、人気スイーツ店を成功させたキートンのスイーツ作りの描写などをキチンと描いていないところや、スフレ作りが人間のメンタルに影響するということの描写が説明的でしかない点です。
スイーツを作る時の繊細な神経の描写やその出来上がった甘さを恋愛映画の隠し味とするという点においてもテキトーなら、それを映画的な描写とすることに関してもあまりに無頓着なところが残念でした。
text by大口和久(批評家・映画作家)
監督:マイケル・レーマン
脚本:カレン・リー・ホプキンス、ジェシー・ネルソン
出演:ダイアン・キートン、マンディ・ムーア、ガブリエル・マクト、スティーブン・コリンズ
(C)2006 GOLD CIRCLE FILMS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:東北新社 宣伝:セテラ・インターナショナル