映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

速報 大阪CO2開幕!<br>平澤竹識(編集)

 大阪梅田のHEP HALLでCO2映画上映展が始まりました。CO2といえば、最近では映画監督協会新人賞を獲った横浜聡子監督の『ジャーマン+雨』や香港映画祭でアジア新人監督大賞を受賞した石井裕也監督の『ガール・スパークス』を生みだした映画祭として知られています。本サイトでも以前、映画祭ディレクター西尾孔志さんのインタビューを掲載しましたが、今回の上映展には編集担当の平澤も少しだけ参加しています。そこで、映画祭初心者の目から見たCO2初日の模様を現地から速報でお伝えしてみたいと思います。

2月26日(木)

 上映展初日、プロジェクターの故障により開場が1時間ほど遅れる。映芸の上映会(現・映芸シネマテーク)でも毎度のようにトラブルが起きるので、こんな状況下での主催者側の心痛はよくわかる。観客の方にはぜひ、これもイベントのうちと鷹揚に受け止めてもらいたい。

 交換用のプロジェクターが無事に到着して上映展が幕を開けた。オープニングを飾るのは〈ドラびでお〉こと一楽儀光と土屋萌児のアニメーションによるライブセッション。一楽氏のドラムがアニメーションの動きに合わせているのか、演奏に合うような形でアニメがコントロールされているのかよく分からなかったが、VJのパフォーマンスとは全然違う感動があった。アニメの手作り感と生演奏の迫力とが相まって独特の昂揚感を生む。祭りが始まったなぁという感じ。

 続いてオープン・コンペ部門の四作品『チェーンソー・メイド』『愛の部屋』『少年少女』『微温』が一挙に上映される。

 『チェーンソー・メイド』(監督:長尾武奈/7分)はゾンビ映画の世界をクレイアニメーションで表現した快作。ゾンビに立ち向かうヒロインをメイドに設定したところに〈今〉があるのだろう。企画の面白さで一気に見せる作品だが、監督がゾンビ映画のファンらしくグロテスクな描写に独特のこだわりも窺える。こういう作り手の映画愛を感じると、ゾンビ映画を見ているのに温かい気持ちになってしまうから不思議だ。でも、せっかくアニメーションでやるのだから、実写的な描写をなぞるのではなく、もっと飛躍があってもよかったのではないか。

 『愛の部屋』(監督:寺田めぐみ/10分)は一転、形而上学的アニメとでも言えそうな短編集。出てくるのは、シンプルな線で描かれたノッペラボウのサラリーマンぐらいで(一人の場合もあれば複数の場合もある)、色も白、黒、赤の三色しか使われない。一見、親しみやすい映像なのだが、そこに社会の競争原理に対する皮肉やコミュニケーション不全の風刺が盛り込まれている。シンプルな線と簡潔な展開で社会や人間の真理へ切り込もうとする姿勢は実写映画の作り手にも見習うべきところがあるのではないか。ホームページでも作品を発表しているということなので、興味のある方には一見をお勧めしたい。

 『少年少女』(監督:小栗はるひ/38分)は母親に虐待され学校でいじめに遭う少年と行方不明の両親を捜し続けている少女が出会い、恋をして、殺人を犯し、逃避行する物語。使い古されたプロットだが、主役を演じる少年と少女の表情や振る舞いがいちいち胸に迫ってくる。粗削りな映像もささくれだった二人の心象を表しているようで違和感がない。とにかく作り手の切羽詰まった情動がはっきりと感じられる作品。自主映画を観る喜びとは、この『少年少女』のような作品に出会えることと言っても過言ではないだろう。

 『微温』(監督:今泉力哉/44分)は二股をかけている男とそれを承知で付き合っている女が主人公なのだが、実は本命の彼女も別の男と二股をかけているという話。絶対的な価値観が存在せず、他者とのコミュニケーションが曖昧にやりすごされる〈今〉はドラマにしづらい。ドラマとは葛藤であり、葛藤とは価値観と価値観、人と人とがぶつかり合うところに生まれるものだからだ。しかし、この作品はリアルで機知に富んだセリフ(芝居)と巧みな作劇で、〈今〉を表現しながら見世物としてもかなり面白く作られている。こういう作品に出会えることはまれだ。

 それにしても、長い時間をかけて慎重に選んだ作品をこれだけ一気呵成に見せてしまうのは大盤振る舞いに近い。1,800円払って一般映画を見に行くよりも、HEP HALLで半日過ごして1,500円を払うほうが賢明な判断であることは間違いないだろう。

 

 その後、CO2のオープン・コンペ出身監督と大阪のミュージシャンがコラボレートしたショートムービー集「凸凹惑星OSAKA」の上映を経て、『幽閉者』や『実録・連合赤軍』の音楽などで映画ファンにも馴染みの深いジム・オルークと一楽儀光(ドラびでお)によるライブセッション。このライブ中、正面のスクリーンにはCO2の総合プロデューサー康浩郎氏が60年代後半に撮った記録映画の映像断片が映し出される。まさにジャンルと世代の垣根を越えたセッションなのである。CO2は若手映画作家の育成を標榜し、実際に若い作り手の映画を中心に上映している。しかし、ゲストの顔ぶれを見ても分かるとおり先行世代への敬意も忘れていない。ディレクターの西尾氏とプロデューサー康氏の信頼関係の賜物なのだろう。このライブセッションにはCO2のそうした姿勢がよく現われていた。若い世代の声を発信しつつ、年長世代ともちゃんと向き合う場を提供すること。それは本サイトの裏テーマでもある。もっとこういう場所が広がっていけば映画の世界も日本という国も面白くなる気がするのだが。

 ライブ終了後、いよいよCO2助成作品(企画制作部門)の一本『そうなんだ』の上映に移る。監督は日大芸術学部出身の水藤友基。女子高生グループの微妙な人間関係、その表と裏を凝ったディティールで見せる作品、かと思いきや後半は意外な展開に。細部のイメージやセリフのやり取りなどからも、作り手は発想力の豊かな人であることが分かるし、女子高生役の若い女優を生き生きと演出する力量も大したもの。ただ、脱線していく後半の展開は賛否が分かれるところだろう。自身のアイデアに溺れずに、一本スジを通していく技術が身に付けば、もっと強い作品を生み出せるのではないだろうか。と、その後のトークで言いそびれたことをこっそり書きつつ、大阪からの速報を締めくくりたい。

 まぁ、こんな下手な文章ではこのイベントの面白さは十分に伝わらないと思うので、関西方面に在住の方はHEP HALLへ来てみてください。きっと何か新しい発見があると思います。明日は原将人監督の最新作や『お城が見える』の小出豊監督による企画制作部門の一本『こんなに暗い夜』も上映される予定です。

CO2映画上映展 梅田HEPP HALLで3月1日(日)まで

公式サイト http://www.co2ex.org/