映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

速報2「韓国インディペンデント映画2007」

印象に残った作品をレポートします。

シアター・イメージフォーラムでの上映は8月31日までとなりますので、この機会をお見逃しなく!

CHIN-GO!(映画中毒)

Bプログラム 

8月30日(木)16:45~、8月31日(金)14:15~

かすかに2.jpg

『かすかに』監督:キム・サムリョク

 キム・サンホという青年がインディーズ映画という荒野をさすらう。彼は高校を卒業したのちに友人が監督する映画の製作をしたのがきっかけで、映画に魅力を感じはじめる。「映画って単にひまつぶしの道具じゃないんだ…」と。大学の映画学科や映画学校のない地方で技術を学ぼうとする、機材を調達しようとする、仲間を探す、これらは常に回り道ばかりを強いられている気にさせられる、普遍的な青春の、夢追いの道程ではないだろうか。

 この物語のごく初期に主人公が映画研究会を訪れてそこの人間にタルコフスキーを知らないことをひどく馬鹿にされる、というシーンがあるがこういうことは映画好きの若者の間で実際よく目にするやりとりである。そして名作、巨匠、に自らをアイデンティファイして、それを知らぬ者を軽蔑、断罪する類の人物はたいてい口だけで映画製作はしないのもよくあること。

 好きな映画として岩井俊二の『四月物語』を挙げて馬鹿にされるサンホは、ほとんどキム・サムリョク監督本人なのだろう。上映前の挨拶でも“岩井俊二浦沢直樹の国に来られて嬉しい”と言っていたし。それでいーんだ! 映画づくりも、それから人生のほとんどのことも、百の屁理屈よりもひとつの実践こそが大事であり、その実践が世間的なランキングや権威ではなく、個人的でささやかな、これが好きだ、これがいい、という思いに裏打ちされていればもう言うことはない。

Cプログラム 

8月31日(金)16:45~

ウリハッキョ2.jpg

『ウリハッキョ~われらの学校』監督:キム・ミョンジュン

 うーん、まんまとやられて感動する。画期的なネタだと思います。在日朝鮮人学校の内側。単に情報としても面白いし、感情的な側面も充実していて圧倒される。北海道の学校を取材したというのもかなり独特で他の朝鮮学校に敷衍できる事柄ばかりではないと思うが、なんというか、あれはユートピアだった。現在の日本社会が失っている共同体の密な関わりがそこにはあった。もっともそれは孤立、閉鎖と表裏一体なのであるが。北海道には朝鮮学校は一校しかなく小学校一年生から高校三年生までがひとつ校舎に集い、またかなりの数の寄宿舎生がいる。その大家族的な雰囲気がほんとに暖かそうで。でもその暖かさは取り巻く状況の冷たさに対抗してかきたてられたものでもあるだろうし。様々な要素をはらんだドキュメンタリーで、けっして要約できない。

 キム・ミョンジュン監督は三年間取材したそうで、カメラに語りかける被写体の生徒たちが“兄貴”“兄さん”と呼んだように、すっかり彼らになじんでいる。意識的な手法やなにかというより、とにかく共に暮らし共感して取材したということの勝利である作品だろう。監督はこの映画の目的を相互理解と宥和に置いており、作品自体は一切の憎悪も非難も主張しない。在日朝鮮人、韓国人、日本人に共有されるべき映画だと思う。数年に一度現れるブロックバスター的ドキュメンタリー作品になる予感もある。

Dプログラム 短編フィクション集

8月30日(木)11:45~

『ハートに火をつけて』監督:イ・ジョンピル

 断片や何かの部分ではなく、圧縮された長編のようにひとつの物語をとりあえずの終わりまで語ったと感じさせたのは、ピョンヤン発(という設定)のロックムービー『ハートに火をつけて』だ。キム・イルソンとジム・モリソンの写真を並べて壁に飾る北朝鮮のロック青年がギター背負って国境を越える。たどりついた韓国で、キャバレーの歌手になろうとしてみたり、オーディションを受けにいったり、海をめざしてヒッチハイクしてたら止まった車はバンド御一行様、彼らと浜でたき火のもとでセッションしたりするも…求めるロックはどこにもないのか…。

 オフビートなギャグムードながら、いわくいいがたい魅力のロック旅映画にちゃんとなってるからおもしろい。ラスト、絶望しかけるも、ある啓示をうけて旅し続けることを決意する主人公のわずかに見える表情がいい。

 

Gプログラム 黙示録についての短い話

8月30日(木)14:15~

『自殺変奏曲』監督:キム・ゴク、キム・ソン

 毎年問題作傑作を叩きつけるキム兄弟の新作、は強烈であった。過激で革新的な作品がジャンル史の読み方を変えるというのはごく稀に起きるが、『自殺変奏曲』もそうした作品だ。ルイス・ブニュエルスタン・ブラッケージトビー・フーパーらを同じ仲間とするようなジャンル、発展があるとして、その最先端がキム兄弟なのである。

 ストーリーと言うほど入り組んだものはない。ノイズミュージックに彩られたハイコントラストのモノクロの13分。覚醒、あるいは別のリアルへの移行が、スイッチのオン・オフか切り貼りされたフィルムのようにシャープに転換してゆく悪夢。自分が殺人を犯してしまったのではないかと怖れる女。あそこの箱のなかに縊り殺したときにゴトリと落っこちた、男の頭が入っているんじゃないだろうか…おそろしくて開けられない! 心臓をわしづかみにするような音で電話のベルが鳴る! ちがう!私がやったんじゃない!

 白と黒、白熱と暗黒の、明滅明滅明滅明滅!…スクリーンとスピーカーからの効果があまりに直接的にはたらきかけ、いつのまにか我々はこの女主人公のもの狂おしい自殺の夜に立ち会うだろう。必見、必体験の一本!!

詳細は「韓国インディペンデント映画2007」公式サイトへ

http://www.imageforum.co.jp/kankoku/indi2007/index.html