映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

「シネマ☆インパクト」第3弾徹底批評!! のその後。 (text 村松健太郎)

半年後の序文

 自分が「映画芸術」のHP上にシネマ☆インパクト第3弾について記事の執筆をお声がけいただいてから半年近く月日が経つ。その記事については様々な方からご意見・ご感想をいただき、良くも悪くも自分の中で大きな記事となった。シネマ☆インパクトはその後各地で上映され、枠組から抜け出た突然変異的に現われた大根仁監督の『恋の渦』が単独で全国公開され話題となっている。仕掛け人山本政志監督の『水の声を聞く』もクランクインした。諸々の私的な事情と、改めてことの難しさに及び腰になり随分と時間が過ぎてしまったが、渋谷での凱旋上映も行われ、シネマ☆インパクトがひと回りもふた回りも大きな現象となってきた今、逃げて回っても仕方がないと考えた。また、半年が経った今でも、時折記事についてメッセージをいただくこともある。これは、シネマ☆インパクトの15作品と、その後の展開を見た中での自分なりに省みた文となる。

 言葉遊びのようだが、いわゆる反省文ではなく省みたのちの文章と思っていただきたい。

事の顛末

 そもそもの始まりは今年の3月の中頃、「映画芸術」からシネマ☆インパクト第3弾のレビューを書かないかとお声がけいただいたところから始まる。

 10年以上興行の場に身を置いていたものの、思わぬ病から退職。その後は、細々とライターや映画やイベントの宣伝の手伝いをして、映画と付き合っていた自分にとってはオープンな場を提供されるということで一も二もなく飛びついた。若干の功名心が働いたのも否定できない。

 早速5本の作品を見ていった。その中には『恋の渦』というモンスターもいた。

 結果的に、ここで自分の勉強不足が露呈することになるのだが。

 月が変わった4月3日付けで「映画芸術」のHPに自分のテキストが載った。実際に今でもHP上に文章が残っている。作った側から見れば決して愉快な気持ちにはならない文章かもしれない。

 この記事が山本政志監督の目に止まり(プロデューサーなのだから報道・記事についてチェックをされるのは当然だが)、記事内での企画の活動等について、不勉強と調査不足が明らかであり、直接会って話をしたいという旨が「映画芸術」経由で連絡が来た。

 山本監督といえば、8mm自主制作から一貫して先鋭的な映画作りをしてきている一方で、個人的にファンである「私立探偵 濱マイク」シリーズでは山本金融の社長として登場していることもあり(またお叱りを受けるかもしれないが)おっかない人物であるというイメージがあった。まぁおっかない人物を怒らせたとあれば、これはただ事ではないなという思いで、ちょうどシネマ☆インパクト第3弾を上映中のオーディトリウム渋谷へと向かった。

 山本監督からの話を大きくまとめると二点。まず、文章を書く立脚点について。不思議なほどに自分の中にもすんなりと入ってきたので驚いたのだが“高みの見物”的な文章になっていて、これがメジャー映画会社に向けられるならまだしも、これから飛躍しようとしているインディペンデント映画企画に向けられるべきではないということ。もう一点が山本監督作品の『水の声を聞く―プロローグ―』についての文章。この文章については自分・映画芸術・山本監督の三者の合意の下現在は文章を削除しているために今は読むことができないが、ここで露呈した自分の勉強不足については全く言い訳のできないことであった。

 それでも山本監督は極力トーンを下げて話をしていただいて、こちらの変に萎縮していた部分も徐々に緩められていった。ただ、この日は直後にシネマ☆インパクトのイベントを控えていたこともあって、時間が限られてしまい、話を切り上げざるを得なかった。話は明らかに終わっていなかった状態であり、また話を伺えないかと提案したところ、約2週間後にまた場を設けてくれるという話になった。今となっては腹の立つ文章を書いた相手に改めて話をする場を設定してくれというのだから、随分と図々しい話だが、結果としてもっと深く突っ込んだ話を聞く機会を手に入れることができた。

 それからはシネマ☆インパクトと山本監督の強化週間のようなもので、様々な媒体でのシネマ☆インパクトと山本監督の情報を漁って回った。本当に呆れた話なのだが、シネマ☆インパクトの過去の作品群には未見のモノもあった。また、書籍等で山本監督のこだわり続けているテーマと過去作品、そして『水の声を聞く』の関連性についても細い糸をたぐるようにして調べていった。ちょうど山本監督と主演の玄里さんそしてゲスト村上淳トークショーもあったので、作品のバックボーンについてその場でも聞くことができた。

 ただし、結果的にこのあたりの用意はあまり必要がなかったような気がする。もちろん話をする大前提の要素にはなり得たものの、自分の“高みの見物”感がどこから出てきているのか?という自己分析の話と、監督の映画製作について、俳優活動について、共通の知人についてなどの話ばかりになった。こういう話の流れになってしまったことは山本監督の希望通りではなかったかもしれないが、前回よりさらに胸襟を開いて、よりざっくばらんに話をしていただいた。

 自分の物言いが“高みの見物”になっていることについては、一つは長年映画興行という作品を持つ身だったことと前述の思わぬ病でどこか厭世的というか諦観めいた感覚でいることから来ているのではと思った。映画興行しかもシネコン畑に身を置いていたため、どうしても一つの作品に対して(誤解を生みそうな言葉だが)責任感が薄くなってしまっていた。そして、重ねて自分の病がある。大げさではなく生死の境を彷徨う病を30歳手前で発症してしまってからというもの、どこか世間に対して距離を置くようになってしまっていた。再発の可能性が高く、実際に一度大きな発作を起こしたこともある身としては、世間一般に深く関わっても急な戦線離脱を起こしかねないこともあって、責任を負うことを避けて通ってきたきらいがあった。拙い言葉の羅列だったかもしれないが、監督は丁寧に聞いていただき、その上で、どうしてもついてまわることなのだから、逆にその経験を活かした方が良いのではと助言までいただいた。

 監督のパーソナルな部分についてはよりリラックスした空気で様々な話を聞くことができた。監督自身のこだわりがあり、時にはあえて封印もしたテーマについて、俳優業について、生前交流が深かった若松孝二監督についてなどなど、さながら日本映画裏面史のような話がいくつも出てきて、驚かされた。また、プロデューサー的観点からシネマ☆インパクトの地方公開や『恋の渦』の単独ロードショーを直前に控えている中での、近年のデジタル化や興行展開の不自然さなどの話にも広がった。このあたりは、興行に身を置いていた者としては耳の痛い部分でもあった。

 監督がこだわり続けていたテーマについては、現在撮影中の『水の声を聞く』で久々に正面から捉えて撮られるとのことで、無事の完成と公開を待ちたい。

 2時間以上多岐にわたる話を聞かせていただき、またこちらの話にも耳を傾けていただいた。また、ご配慮で、その後のシネマ☆インパクトのオーディションも見学させていただいた。

 終わってみれば、こちらばかりに得るものが多かったのが正解であるかは微妙なところでもある。

一つの問題提起

 自分の体たらく、不甲斐なさばかりの羅列ではなんとも締まりがないので、一つの問題提起にて締めたい。シネマ☆インパクトに限らず、このようなワークショップに類するものから発信される映画製作企画は発起人・仕掛け人であるプロデューサーの負担があまりにも大きすぎる。自然とそれは企画の継続性にも関わってきて、やっと企画が根付いたところで息切れしてしまいかねない。実際山本監督からも『水の声を聞く』の撮影に入りたい一方で、シネマ☆インパクトの地方公開や、『恋の渦』の単独公開の算段をつけなくてはいけなくて、忙しいという話が出た。限られた予算・期間の中でも一定のクオリティの確保が保証されていることは、ある程度諸企画によって証明されてきた今、もっと組織だった体制が取られてもいいのではないだろうか? もちろん、作品のカラーに不当な制約がかかったりしてはいけないが、すべてを発起人・仕掛け人のバイタリティに任せてばかりでは、先細りになりかねない。メジャーのシネコンでも競合館との差別化もあり昨今はアクの強い作品や短編の上映も行われるようになった。公開環境が整いつつある一方で、作品が供給されなくなってしまっては元も子もないのだが……。

 最後に、実はこのような文章については、山本監督とも何かしらの形でまとめたいと話をしたこともあり、夏前に一度トライしたことがあった。ところが、公私にもろもろの事情が発生し、また、形にできる程事態を消化しきれていなかったこともあり、尻尾を巻いた。その後、シネクイントでの『恋の渦』のロードショー初日に山本監督にお会いできたので、約束の一つも守れずに申し訳ありませんと直接伝えることができたものの、それでも自分の不甲斐なさに後ろめたいものを感じていた。そんな自分に発破をかけてくれたのが熊切和嘉監督の『止まない晴れ』の主演女優伊藤尚美さんであった。シネマ☆インパクト凱旋ロードショーの際に半年も前の記事を見つけていただき、解釈についていくつかの指摘をされた上で、改めての鑑賞のお誘いをいただいた。残念ながら、諸々の事情で劇場には伺えなかったものの、自分の文章が未だに生きていることを感じ、改めてこの難題に挑む契機となった。まともな文章にまとめ上げることもできない人間に時間を割いていただいた山本監督、最初の記事から半年も経過してから記事掲載の場を提供してくれた「映画芸術」誌、そして伊藤尚美さんにこの場を借りて、お礼と感謝を記させていただく。

*2013年04月03日掲載「「シネマ☆インパクト」第3弾徹底批評!!」記事はコチラ

村松健太郎】 

映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年末より㈱チネチッタに入社。翌春より番組編成部門のアシスタント。07年よりTOHOシネマズ㈱に入社。同年6月より本社勤務。11年春病気療養のため退職。12年日本アカデミー協会民間会員・第4回沖縄国際映画祭民間審査員。現在、NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝に携わる一方で他の媒体への批評・レポートも執筆。