映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

「シネマ☆インパクト」第3弾徹底批評!!(text 村松健太郎)

 映画監督であり映画プロデューサーでもある山本政志が脱ワークショップ、非ワークショップを掲げて立ち上げたプロジェクトの第3弾にして、第1シーズン完結編といった趣の中・長編5作品。第2章とも言うべきシネマ☆インパクト2013では長編制作を掲げている。 『止まない晴れ』 「止まない晴れ」.jpg 2013年 32分 監督:熊切和嘉 脚本:辻田洋一郎 撮影:高木風太 録音:小山道夫 編集:堀善介 出演:伊藤尚美 関寛之 樹香 吉原大地 松竹史桜 小松茂  熊切和嘉監督による結婚記念日と同窓会を迎える同窓生夫婦の物語。残り10分で夫婦の秘密が明らかになるところから始まる混乱にどこまで同調できるかが鍵だろう。  最初の秘密が意外な形で描かれるところまではある種の定形に沿った作りであり、そのあとのカオスに向かう展開を見ると、監督の“型にはまらない、むき出しの俳優と出会えたらいいな”という希望と“彼女(主演の伊藤尚美)をいかに追い込み、ぶっ壊し、どれだけ本当の感情を引き出すことができるか?”という狙いの体現に一応の成功を感じる。  ただし、作品としては熊切監督のこれまでの作品群の延長線上にあるもので、そこから大きく跳ね上がるまでには至らなかった。話の落とし方を考えれば、30分強という上映時間は最適であろうが、このような特殊な制作形態であれば、カオスを迎えてからの部分をあと10分描いて、見ている側全員に前半部分を忘れさせ、引かせるぐらいの壊れぶりが延々と続き21世紀の大宴会が描かれても良かったのではないだろうか?  秘密の描かれ方にもムラがあるように感じた。ああいう形で露見するのであれば、劇中、別の形でも露見しうるべきで、そこは伏線を張る形で丁寧に描かれていたほうが良かった。思わせぶりに登場するヒロインの妹も登場するだけで、その後機能していない。  “型にはまらない”ところを強調させるためには前段階に綺麗な形で“型”を見せておいて、そこから一気に崩すような形にしたほうが効果的ではないだろうか?  “型”をしっかりとしておかなければ“型破り”の印象も自然と薄らいでしまう。  熊切監督は変に登場人物を増やしてしまうと物語錯綜してしまうことが多くて、こういう形でメインの人物たちをコンパクトに描いたのは成功だが、今度はあまりにもメインとその他の中で演者のバランスが崩れてしまったような気がする。他のところと言っていることが矛盾してしまうような気もするが、企画としてはもう少し一人の演者ではなくて、複数の演者にスポットライトが浴びるような作りが求められたのではなかったのではないだろうか? 熊切監督も大小多くの作品を経て来ているのでそこは、もう少し企画に寄り添っても良かったのではないだろうか? シネマ☆インパクトのあり方とその中での監督の立ち位置についてふと考えてしまった。 『集まった人たち』 「集まった人たち」.jpg 2013年 62分 監督・脚本:いまおかしんじ 撮影:戸田義久 録音:光地拓郎 編集:神谷朗 助監督:甫木元空 出演:新山志保 松永祐樹 鈴木将一朗 重田裕友樹 阿部隼也 小川朝子  いまおかしんじ監督の生きているうちに貯まる鬱屈とSEXへの欲求をめぐる作品。  酔った勢いで後輩に迫る自称ヤリマンの先輩はカウンセラーとして女性恐怖症の男性患者に相対する。社内恋愛に行き詰まるカップル、男のセフレ扱いに苛立つ女はオタクのコスプレ撮影会の被写体になる。女子高生は裏DVD売人を父親に仕立て上げて面談に臨み、その担任は自身のロリコン趣味に悩む。男性客に無理な注文を受けたデリヘル嬢は恋人に仕事を黙っていたことで揉め始める。女性を襲う計画に友人を誘う男達だが、ターゲットになった女性が強気で逆に愛とは何かと説教をされる。その女に強引に不倫関係を求められる男に年季の入った街娼二人組が迫る。  細い糸で繋がりを持つ特殊でイタイ人間たちの跳梁跋扈が、監督のホームグラウンドを舞台にしているためにギリギリの淵でおさまっていて不快ではない苦笑に満ちた仕上がりになっている。SEXと恋愛感情のバランスを考えて悶々とするのか? とりあえずは欲望に身をゆだねておくのか? 欲望の男女比は? 答えのない問なだけに荒業のラストもそれほど違和感がない。  また、このような企画では演者の出演のバランスを考えるあまりに結果として映画自体がギクシャクしてくるものだが、いまおか監督の器のサイズの見立てが良く、映画全体の設計の良さを感じた。全く違うパートにそれまでの登場人物が思わせぶりに登場する部分があまり機能していないことが惜しいところだ。  制作体制に限られているところで、得意とするホームグラウンドのあるいまおか監督の強みがうまく作用した。強いて言えば、もう少し糸のつなげ方を有機的な形にできなかったのかと思う。場面・場面の演者の組み合わせは綺麗にはまっていただけに、場面が展開にあざとさを感じてしまう。群像劇ではなくエチュードの連なりといった趣なので、変に繋げなかったほうが、その場面と演者が立ったのではないだろうか? 『恋の渦』 「恋の渦」.jpg 2013年 138分 監督・撮影:大根仁 原作・脚本:三浦大輔 撮影:高木風太 大関泰幸 録音:岩倉雅之 光地拓郎 出演:新倉健太 若井尚子 柴田千紘 後藤ユウミ 松澤匠 上田祐揮  劇団ポツドール三浦大輔による岸田國士戯曲賞受賞の戯曲を三浦自身が脚本を担当して大根仁監督が映像化。大根監督にとっては結果的にあの『モテキ』以来の長編となった。ここで140分の作品を撮り上げたことが長編制作を掲げたシネマ☆インパクト2013へのシフトチェンジに繋がったのだろうか?  深夜の鍋パーティに集まる数組の男女。狙いはそれぞれの男友達と女友達をくっつけ合うことが狙い。しかし、出会いでつまずき4時間後には気まずいままで終わり、それぞれ散開となる。恋人同士、友人同士でその後の時間を過ごす面々だが、その場では言えなかった不満が頭をもたげ始め、微妙な空気が流れ始める。一週間の後、鍋パーティのことを肴に組み合わせを変えて盛り上がる面々。少しずつ関係性が歪み始めていく。さらに一週間後にはすっかり関係は変わっていた……。  漢字の微妙ではなくカタカナのビミョー、漢字の本音と建前ではなくカタカナのホンネとタテマエを物語にするとこうなるのか。全編セリフの押収で覆われた140分は大根監督得意の人間の不器用さと身勝手さが充満する物語になっている。キャスト面での弱さはあるものの、単独でも十分に成り立つ長編になっている。完成度についても当然といえば当然であろうが、ひとつ頭が抜けたデキになっている。逆にシネマ☆インパクトの中にあっていいのかという気にもなってくる。これだけのものが出来上がってしまうと他の二つの企画との差異が目についてしまう。  人間身内には甘くなる反面身勝手にもなりやすく、他人にはどうしても見栄を張りたくなる生き物なのだということを改めて感じさせてくれる。もちろん、ある世代・ある人々にはピンと来ない人物ばかりが登場するが、キャラクターの本質を見てみれば、そこにはどこにでもいる人々に見えてくるはずだ。  今の人間は感情でも繋がっているがスマホ・携帯でも繋がっている。人と人を繋げる力という点ではスマホ・携帯の方が強いかもしれない。残念ながら……。 『海辺の町で』 「海辺の町で」.jpg 2013年 64分 監督・脚本:廣木隆一 撮影:鍋島淳裕 録音:ジョイスあゆみキャスリーン 編集:和田剛 出演:高麗靖子 真辺照太 北口辰也 小嶋喜生 山口可奈子  福島県郡山市出身の廣木隆一監督が震災の爪あとも生々しく残る福島にてロケを敢行した一品。ストーリーらしいストーリーはない、また、多くの出演者が登場するが、それが群像劇のように絡み合うわけでもない。  役どころもバラバラで被災者、ボランティア、取材者、工事業者、人妻モノのAVの撮影クルーまでいて、中には福島に向かう意図がよくわからない者たちもいる。全てに共通している部分がある、佇まいが虚無的で刹那的なのだ。その佇まいが映画を作っていく。やりきれない思いという言葉では少し語感が強すぎる、被災地に漂う感覚と空気。    少し極端な物言いをすればそこに映る人間たちは役者という職業の人間たちであって、誰かによって演じられた人物ではない。かつてそこは街であったのであろう何もない風景は確かにそこに大きく存在しているものの、映画のために切り取られ、用意された風景はそこには一切ない。  “確かにあるが、何かがない”下手なドキュメンタリーよりも被災地の現状を感じられる風変わりな立ち位置の作品になった。  その分だけ、挿入されるキャラクターが何かを抱えていそうな部分はいらないような気がする。立て続けにカメラが出てくるのでこれが意味があるのかと思うとそうでもなく、濡れ場が複数出てくるのも今ひとつピンと来ない、エロス=生という効果を狙ったのだろうか? ひたすら家族を探す人々、ボランティアというものへの何気ない思いを語り合う若者たち、被災しながらも普通の暮らしを続けようとする人々、エンコして遅々として進まない車は復興の隠喩だろうか? 動作やセリフで震災後の空気を伝えようという意図は分からなくもないが、前述のとおり、何もしない佇まいが結果的に震災後の被災地の空気を感じさせているだけに、アンバランスさが目に付いた。もちろん前半部分があった上で後半の静かな部分が際立つわけで無駄ではなかったのだろうが、ここは企画上避けられない演者を平等に出演させなければいけないということの弊害が出てしまった。廣木監督の小さな範囲内の人間たちを描いてきたフィルモグラフィを考えれば、アルトマンの様な群像劇をこの陣容で描くにはやや無理があった。 『水の声を聞く―プロローグ―』 「水の声を聞く」.jpg 2013年 31分 監督・脚本:山本政志 撮影:高木風太 録音:小山道夫 編集:山下健治 制作:吉川正文 音楽:Dr.Tommy 出演:玄里 鎌滝秋浩 小田敬 高橋美穂 齋藤隆文 樫原由美子 *詳細は劇場へ! 村松健太郎】  映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年末より㈱チネチッタに入社。翌春より番組編成部門のアシスタント。07年よりTOHOシネマズ㈱に入社。同年6月より本社勤務。11年春病気療養のため退職。12年日本アカデミー協会民間会員・第4回沖縄国際映画祭民間審査員。現在、NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝に携わる一方で他の媒体への批評・レポートも執筆。 3月30日(土)~4月19日(金) オーディトリウム渋谷 http://a-shibuya.jp/archives/5405 ■上映スケジュール
5作品3プログラム Aプロ:廣木隆一『海辺の町で』(64分)+山本政志『水の声を聞く -プロローグ-』(31分) Bプロ:熊切和嘉『止まらない晴れ』(32分)+いまおかしんじ『集まった人たち』(62分) Cプロ:大根仁『恋の渦』(140分) 3/30(土)‐ 4/2(火)16:10 Cプロ  19 :00 Aプロ 4/3(水)‐ 4/7(日) 16:50 Aプロ 19 :00 Bプロ 4/8(月)‐ 4/12(金)16:10 Bプロ 18 :20 Cプロ 4/13(土)21:00 Cプロ 4/14(日)21:00 Bプロ 4/15(月)21:00 Aプロ 4/16(火) 21:00 Cプロ 4/17(水)21:00 Bプロ 4/18(木) 21:00 Aプロ 4/19(金)21:00 Cプロ 料金:当日一般 1500円 学生・シニア 1200円 1回券 1200円 3回券 3000円 シネマ☆インパクト2013 Vol,1 4/1(月)始動!! 今年は、長編作品制作 林海象濱マイクシリーズ、弥勒)平波亘(労働者階級の悪役)タナダユキ(ふがいない空を僕はみた)、行定勲(春の雪、クローズドノート)大森立嗣(ぼっちゃん さよなら渓谷)各監督 下記HPからお申し込みください。 http://www.cinemaimpact.net/info@cinemaimpact.net