映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009参戦記 Part 2 <br>『大拳銃』宮川ひろみ(主演)・大畑創(監督)Wインタビュー <br>デューイ松田(ライター)

 今回のゆうばりファンタ、一番の大収穫だった『大拳銃』。元々鑑賞作品を選ぶ際に、『手が! 頭が!! 胸部が!!! 木っ端微塵にハジけ飛ぶ!!!!! ひとつの「確信」を得ることの出来た男が繰り広げる、短編自主アクションノワール映画』という、この2行のコピー一撃で、ジャンル映画好きのココロが鷲掴みにされた。しかし、木っ端微塵にハジけ飛んだのは、ごく普通の大きさだった期待だった。

 オフシアター・コンペティション部門にて、審査員特別賞を受賞するも、受賞式では多くを語らなかった大畑創監督と主演の宮川ひろみさんに突撃インタビューを敢行!

宮川ひろみインタビュー

高橋伴明監督にプロデューサーと間違えられたのがショックでした(笑)

宮川ひろみ_インタビュー使用.jpg

■人間の愚かさを描いた脚本に惹かれました

――『大拳銃』ではあの触ったら焼け切れそうな冷たい目つきが圧倒的だったんですが、舞台挨拶やシネサロンの外で観客を見送られた時は、華やかな女優オーラの漂う笑顔にドキッとしました。同じ方とはとても思えなくて、これは絶対お話を聞きたい!と思ってお声掛けさせていただきました。

はい(笑)。何でも聞いてください。

――台本を読んだときの印象はいかがでしたか。

人間の愚かさや弱い部分を描いていて面白いなあと思いました。監督と、「君枝は“馬鹿”だよね」っていう話になって。一言で言ってしまうと少し違う気もしますが……。目先の金に惑わされるような愚かな女ですよね。それはそれで人間として普通のことだったりもするんですが。

――夫への不満を目つき一つで表現されていると思いましたが、大畑監督の演出はどういった感じでしたか。

監督とは、大事なシーンについて撮影の数週間前にイメージを伝え合いました。私が考えていたのは、もう少し柔らかい感じで、ヌケている感じの役っていう……。最初話したときは、監督もあまり何も考えてなくて、結果的に目先の金に行ってしまうという感じのイメージだったんです。でも、いざ演じてみた時にちょっと違うってことになって。最終的に出来上がったものを観ると結構悪い女っぽく、監督の要望に答えられたんじゃないかと思いました。

――拳銃の暴発後の反応が面白かったです。

あれも最初は、もっと早く反応して痛がってたんですけど、監督から、もうちょっとゆっくりめで、左右を確認して、正面向いてから痛がってください、という指示がありました。ばーっと後ろに倒れこんで、カメラの画角に入らないところから起き上がるんですが、本当は指がないと立ち上がれないはずなんですが(笑)、そこがメインじゃないんで、結構腹筋だけでクッ!と(笑)。インパクトを重視してあんな動きになりました。

――売人との電話の最中に夫が帰ってくるシーンでは、「電話聞いた?」と全く動じずにしれっと流すシーンがかっこよくて印象的でした。

それはやっぱり監督の演出ですね。一番NGを出しちゃったのが、あの電話のシーンなんですよ(笑)。

場面写真(メイン)new.jpg

■昔は結構、監督に文句言ったりしてました(笑)

――完成した作品をご覧になっていかがでしたか。

初めて観たのは、映画美学校での上映でしたが、初めはやっぱり自分の出演しているシーンばかり追いかけてしまいました(笑)。ゆうばりでの上映で、やっと冷静に観ることができたんですよ。31分の作品ですが、1 時間くらいの尺の濃い内容で、映画映画してて好きです。そこが台本読んだ段階でも好きだったんですけど……うーん。

――何かあったんですか。

審査員の方からは「人間が描ききれていない」という指摘がありました。「何で急に、大拳銃作っちゃうかなぁ」みたいな。「そこまで行くのに人はもっと葛藤があって、そういう部分が抜けちゃってるんじゃないか」って突っ込まれて。

――特に違和感はありませんでしたが。

台本を読んだ段階でそれが分かっていたとしても、元々、予算と尺が30分という枠が決まっているわけだし、内容と尺に関しては意見しませんよね。昔なら文句を言うこともあったんですが(笑)、自主映画で、いち役者がそれをすると現場がバラバラになっちゃうんで……。役作りの部分では意見を言ったりしますが、監督の要求に答えて監督のやりたいものを表現するのが私の目指しているやり方です。

――今回ゆうばりで何か印象に残ったことはありましたか。

役者をやっていて嬉しいことは、映像に写っていて、本人が居た時に誰だか分かんないことなんですよ。でも、今回ショックなことがあって……。審査員の高橋伴明監督と、散々映画の話をした後に、「ところで君はプロデューサーなの?」と言われたんです。「出演してました!」って言っても、まだ分かってないみたいで。全出演者で女の子は1人なのに。それで、今まで私がいいと思っていたことは、実は良くないことだったんじゃないかと思って(笑)。全然関係ない人に言われるんだったらいいんですけど、高橋伴明さんに言われたっていうのがショックで。

――きっと高橋伴明監督も、しまった!と思ってますよ(笑)。

その後、口がきけなくなっちゃいました(笑)。笑い話ですけど。

大畑創監督インタビュー

『大拳銃』はフィルム・ノワールのノリを目指したんですよ

大拳銃監督顔写真new.jpg

高橋洋監督からラリー・コーエン路線を薦められました(笑)

――『大拳銃』を作った経緯を教えてください。

大阪のテレビ局で編集の仕事をしていたんですが、思うように仕事も出来ず、心機一転、こうなったら好きな映画を作るしかない! と、26歳で映画美学校に入るために東京へ行きました。初等科と高等科で約2年勉強した後、修了制作として制作しました。

――聞くまでもなくアクション映画がお好きだとは思うんですが、どんな作品がお好きでしたか。

ロボコップ』ですね。日曜洋画劇場で繰り返し観た世代ですから。フィルム・ノワールも好きです。ジョゼフ・H・ルイスの『拳銃魔』、フリッツ・ラング復讐は俺に任せろ』、ラオール・ウォルシュ『白熱』とか。主人公が異世界へと誘われていく感触が好きです。実は、『大拳銃』でもそういうノリを目指してみたんですが、上手くいっていないのか指摘されたことはありません(笑)。

あと、黒沢清監督の『蛇の道』。初めて観た時は吐き気がしたんですよ。「なんじゃこりゃ!」って(笑)。でもあまりのインパクトに何度も観るうちに、だんだん惹かれていきました。映画美学校に入ったのも黒沢監督に教えてもらえると思ったからなんです。

――実際入学されて、黒沢監督はいかがでしたか。

黒沢監督は1年に1回来られるくらいで(笑)、各講師のゼミがあって、それぞれシナリオの講評などを行うんですが、僕は古澤健監督のゼミでした。高橋洋監督は、ビデオ課題の講評などで全講師と生徒が集まる時くらいでしたね。むしろ飲み会で話す方が多かったかも……。僕のシナリオやビデオ課題にも意見を言ってくださったんですが、「大畑はラリー・コーエンの路線で行ったらいいんじゃない?」……少々複雑な気持ちになりました(笑)。

――高橋洋監督とは飲み会以外での交流はありましたか。

講師と生徒のコラボレーション作品で、僕が美術部として参加した『狂気の海』の制作時ですね。当時は「映画監督ってのは桁外れにワガママなものなんだなあ」と呆れてしまいましたが、いざ自分が監督する段になるとワガママになってしまいました(笑)。今では勿論、ワガママでないといけないと思ってます。

――『狂気の海』どの部分を担当されたんですか。

気象衛星です。

――えっ!あのアマテラスですか?トランスフォームのあまりのチープさに観客が大喜びする名シーンですね。

はい(笑)。今観ると恥ずかしくて仕方ないです。もう一本、コラボレーション作品があって、古澤さんが監督された『先生、夢まちがえた』で脚本を書かせていただきました。この2つの経験があったからこそ『大拳銃』を作ることが出来たと思ってます。

場面写真(サブ_02)new.jpg

■拳銃は100円のおもちゃを改造!

――『大拳銃』の脚本の発想はどういった所から浮かんだんですか。

シナリオの授業で、悪い刑事が主役で警察の内部紛争ものを考えたんです。その刑事が鉄工所のおっさんに拳銃の密造を依頼するという展開をメインに持ってきました。

――実際制作に入って、プランとのギャップはありませんでしたか。

制作費は学校から出るんですが、限られているので工夫が必要でした。拳銃は鉄で作りたい!というのはあったんですが、当然無理なので100円のおもちゃの拳銃を美術部が改造したり……。(笑)そういった予算的なことや、演出に関しては経験不足から、なかなか思い通りにいかなかったですね。

――具体的には?

役者さんと一緒にお芝居を作り上げていくこととか……。例えば、拳銃密造を依頼されるシーンです。主人公が初めて本物の銃を目の前にするということをしっかり表現した上で、登場人物の関係を浮かび上がらせるべきなのに、ただシナリオ上の文字を映像に起こしただけに留まってしまって。気になるシーンはいくつかあるんで、次回作では、念入りにリハーサルをしてみたいですね。

――大拳銃そのもののデザインは監督の中で明確なイメージがあったんですか。

なかったんですよ(笑)。撮影が始まってもなかなか決まらなくて……。美術部が優秀だったんで、無骨な感じを出せたと思います。

――制作期間はどれくらいですか。

準備期間が2ヶ月で、撮影期間が一週間、ポスプロ期間に約半年かかりました。映画美学校の事務局から「早く仕上げろ」と急かされたんですが、わがままにわがままを重ねてかなり時間を掛けちゃいましたね。才能なんてない僕は、見苦しくもがきながらも執念で映画を作るしかなかったわけでして。

場面写真(サブ_01)new.jpg

■こだわったのは、感情のない職人の目と音

――職人が拳銃作りにのめり込んで行く姿が新鮮で、空気が張り詰めたような緊迫感がありました。

そう言っていただけると嬉しいです。なんらかの「確信」を得られた人間は、落ち着き払って作業をするだろう、という思いがありました。怒りなどの感情に任せて拳銃を造るわけではないと。実は撮影前に、工業オリンピックという世界的なイベントのテレビドキュメンタリーを偶然見まして。そこに出てくる旋盤技術工の方々の目つきや表情を少し参考にしました。無心というか、感情のない目というか、機械の一部になってしまってるような奇妙な印象がありました。

――暴発する拳銃を売人に撃たせようとするシーンの緊張感は、素晴らしいものがありました。

実は、冬の撮影で暗くなるのが早くて、納得がいくように撮れなかったんです。橋詰が暴発銃を撃つか撃たないか、という場面で橋詰の顔のショットを撮れていなかったり、弟の寄りのショットが足りない、とか……。暴発する銃と、しない銃との違いが分かりにくいのも良く指摘されます。それと、ロケ場所の選択も、意匠的には素晴らしかったんですが、拳銃の試射をあんな開けっぴろげな場所でやるか?っていう(笑)。

――最後の銃撃戦では、耐えに耐えた情念が爆発した様子に燃えましたが、監督としてはいかがでしたか。

上手くできたんじゃないでしょうか(笑)。一番自信があるのが、音です。アクションシーンの重要な要素として、銃の発砲音はもちろん、足音や呼吸音まで、とにかく動いたモノにはほとんど音を作って入れました。おもちゃの銃をリアルな音にするために、録音部の女性と一緒に重たい鉄を使って試行錯誤したり……。それでポスプロが長引いたんです。MA(整音)作業もこだわりました。撮影に関しては、細かくカットを割りましたが、限られた時間でよく撮りきれたなぁと思います。現場はテンテコマイでしたが。

舞台挨拶1.jpg

監督舞台挨拶の模様

宮川ひろみさんを見て、君枝がいる!と思いました

――キャストはどうやって選ばれたんですか。

オーディションです。宮川さんは『ヒミコさん』を観ていたんで、「君枝がいる!」って思い、直接依頼しました。ああいう目つきが好きなんですよ。

――古澤監督が師匠なだけあって、『Mっぽいの、好き。』なんですか(笑)。

はい(笑)。『氷の微笑』のシャロン・ストーンみたいなファムファタールが好きですね。日本でビッチができる女優さんってなかなかいないですよね。

――極妻みたいになっちゃったり。

それかギャルみたいな感じでしょう。君枝の性格について、最初は僕と宮川さんの考えていたイメージが違ってたんです。僕はかっこいいビッチ。宮川さんはバカな人っていう差があって。結局、ビッチとしか言いようがない、見下した感じで演じていただきました。

――君枝との深い断裂の具合、面白かったですね。君枝が売人との電話を夫に聞かれた直後に、しれっとした反応とか。

最初、宮川さんは慌てたように演じてらっしゃいましたが、いつか起こるであろうと2人とも予感していた、それが起こったという感じで、強い女として演じてもらいました。

――銃が暴発するシーンでは、ちぎれかった指の上から絶縁テープで無造作にグルグル巻きにするところが大笑いでした。ああいうセンスは監督のものですか。

はい(笑)。好きですね。でも笑わせようとしたんじゃなくて、主人公の行動優先順位が誰にも予測できないところまで行っちゃった、っていうことをやりたかったんです。いや、不服に思ってるんじゃないんですけど(笑)。笑ってもらってももちろん嬉しいです。

――ブラックな笑いが気に入っている映画やシーンはありますか。

ロボコップ』の、ED-209御披露目シーンで若造社員が射殺される場面や、悪党たちの街中でのコブラ砲試射シーンなど。『スターシップ・トゥルーパーズ』に至っては全編笑えます。過剰なやりすぎ感は大好きです。人の死を娯楽として面白おかしく扱うのはとても真っ当なことだと思います。不真面目ではなく、非常に真面目に映画を作ってるところが素晴らしいですよね。

――特殊メイクは非常に出来が良かったですが、やはり学生さんのチームで制作されたんですか。

元々特殊メイクを勉強されていた方がいらっしゃいまして。僕も完成したものを見て出来がいいので驚きました(笑)。

■完全な悪の主人公やビッチを極めたヒロインを撮りたい!

――お話を伺っていくと、主人公・縣の、多くを語らず究極の拳銃作りにのめりこんでいく様子が監督ご自身とダブってくるんですが。

それを指摘されると、やはり気恥ずかしいですね。優柔不断で、そのくせ実はどこかズルいところがあったり……。さすがに拳銃造ってブッ放してみたいと思ったことは……ありませんが(笑)。何かを造り上げる人というのは、映画の登場人物として面白いですよね。フランケンシュタイン博士しかり、『ザ・フライ』しかり。……って、どっちもマッドサイエンティストものですね(笑)。

――ゆうばりでは、手ごたえのようなものを感じましたか。

いやー、どの作品も素晴らしいので、観る度に宮川さんと落ち込んで。晩は飲んでばかりいました(笑)。ゆうばりは初めてだったんですが、お祭りみたいで楽しかったです。ただ、寒くて(笑)。『ロックアウト』の高橋康進監督と仲良くなったんですけど。飲んでお互いにぎこちなく褒め合ってました(笑)。

――長編のプランはありますか。

はい。悪い市長が主人公のアクション物です。悪を極めた主人公に惹かれますね。

――使ってみたい役者さんは。

宮川さんです!もっと凄いビッチを観てみたいんで。ビッチを極めたヒロイン!最高ですねぇ(笑)。

――最後に一言お願いします。

ゆうばりで賞をいただいたことももちろんですが、たくさんの人に「面白かった!」と言ってもらえたことが何より励みになりました。この映画に関わってくれた人みんなの尽力の賜物です。『大拳銃』を撮らせてくれた映画美学校に感謝します。次は更なる娯楽映画を作るつもりですので、是非観てやって下さい。それにしても自分の映画について話す のって難しいですね。今後の自分の課題にします(笑)。

 5月に入って、大畑監督からホットなニュースが2つ届いた。

 1つ目は、渋谷・アップリンクXにて8月上旬から二週間レイトショー『傑力珍怪映画祭』(けつりきちんかい映画祭)のラインナップとして『大拳銃』上映決定!

 同時上映は『魔眼』(伊藤淳監督)、『地獄に堕ちたシェイクスピア』(間野ハヤト監督)、アニメーション作家にいやなおゆき氏の『灰土警部の事件簿 人喰山』という強力な布陣。毎日、特別招待作品の上映やイベントも開催 を企画中とのこと。

 そして2つ目は、PFFアワード2009入選! 7月に開催のぴあフィルムフェスティバルにおける一般観客の評価はいかに!? 

 ますます多くの人々の目に触れる機会を得た『大拳銃』の動向に注目したい。

傑力珍怪映画祭サイト http://www.sodomujou.com/

PFF公式サイト http://pff.jp/31st/