映画芸術

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ゆうばり国際ファンタスティック映画祭から海外マーケットへ続く道~<br>NAFF 2009 IT PROJECT 参加者インタビュー<br> 入江悠(『SRサイタマノラッパー』監督)<br> 綿野かおり(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭東京事務局)<br> 相原裕美(ビィ・ウィズ代表)

 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭が、オフシアター部門でクランプリに輝いた監督に賞金を授与して次の作品の制作につなげるという体制になって2年目。今年は『SRサイタマノラッパー』の入江悠監督がグランプリを受賞。7月に行われたプチョン国際ファンタスティック映画祭で上映すると共に、同時開催のNAFF 2009 IT PROJECT(アジアファンタスティック映画制作ネットワークの企画マーケット)で次の企画『それいけ!女子ラッパー(仮題)』のプレゼンに参加した。

 企画マーケットとは何か。映画制作に携わる人々にとってどんなメリットがあるのか。

 入江監督、プロデューサーを務めるゆうばり国際ファンタスティック映画祭東京事務局の綿野かおりさん、有限会社ビィ・ウィズの代表・相原裕美さんにお話を伺った。

(取材・構成:デューイ松田)

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NAFF 2009 IT PROJECT参加監督たち

■企画マーケットとはお見合いの場

――相原さんは、どういった経緯で入江監督と一緒にお仕事をする事になったんでしょうか。

相原 『SRサイタマノラッパー』を観て物凄く面白かったんですね。才能のある監督なので、彼の映画を他の海外の映画祭にも紹介したいと思いました。それをする一方、入江監督と綿野さんが初めて企画マーケットに参加するという事で、お手伝いできればと同行しています。

――企画マーケットの概要を教えてください。

相原 企画マーケットは、私がコーディネーターをしているオランダのロッテルダム国際映画祭のシネマートが元祖です。企画を持ち寄って、資金を出してくれる方を見つけたり、共同プロダクションの相手を探しているなら企画を求めているプロデューサーを紹介するといった事を行う、お見合いの場と言えます。若手を育成するプログラムとして各国の映画祭でも同じような企画マーケットがあり、釜山国際映画祭ならPPP、香港国際映画祭ならHAF、東京国際映画祭ならTPG、このプチョンならNAFFです。

 プチョン映画祭で企画マーケットが始まったのは昨年からです。ここがユニークなのは、ホラーやアクションといったジャンル映画に特化して企画を集めている事です。ジャンル映画というのは、より若い才能が集まって来るんじゃないかと思うので、普通の企画マーケットより面白い試みだと感じました。

――『サイタマノラッパー』も次回作の『それいけ!女子ラッパー(仮題)』もジャンルフィルムではありませんよね。

相原 そういう意味ではプチョンの企画マーケットの趣旨とは少し違いますが、ゆうばり映画祭とプチョン映画祭が良い関係を作る上で、1つの良いケースとしてプチョン映画祭で映画を上映し、その監督の次の作品を企画マーケットに出すという理想の形ですね。

『女子ラッパー』は元々規模の小さい映画で、ゆうばりで得た賞金200万円を基に、小さいバジェットで作ろうとしている作品です。実際に、『女子ラッパー』の企画だけでお金を集めるのはまだまだ難しいと思います。そこで『サイタマノラッパー』の権利も海外に売ってお金を集めて、それを『女子ラッパー』に繋げられればという事です。そうそうマッチングする相手が見つかる訳ではないので、あまり高望みするのではなく現実的に考えています。

 綿野さんが中心になって企画のプレゼンができる資料を作成し、監督自身もプロモーション映像を作ったりして企画マーケットに臨んでいます。

 次に彼らがやらなければならない事は、ロング・シノプシスを作って、英翻訳して見てもらう。脚本ができたら、英翻訳して読んでもらう。そういった作業は、結構コストもかかるんですよ。海外のマーケットでやり取りするためには、資料全てを英語に翻訳する必要がありますから。費用対効果を考えると、それに見合うのかという意見もありますが、将来につなげるという点では有効な遣い方だと思います。

 話をした方達は、入江監督が『サイタマノラッパー』の国内の配給を自分達で行っている事について、そういうエネルギーも凄い、って評価してくださってますね。私が彼を面白いなと思ったのもそういうところです。私が何故こういう事をやっているかと言えば、『鉄男2』と『東京フィスト』でご一緒した塚本晋也監督がそういう人だったんですね。自分で作って、公開まで自分でやるというマインドを持っている。そういう人が好きなので、私の心にひっかかったんです。

――映画祭期間中に交渉は完了するものでしょうか。

相原 その後も、脚本を読んでもらったり、交渉は続きます。撮影は9月から入りますが、それは、ここでの交渉によってお金が入る入らないに係わらず進んで行きます。今回は、お金だけをあてにしているのではなく、今後、より広がっていく事を期待して参加しています。

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企画ミーティングの模様

左から相原さん、入江監督、ナンサン・シーさん(プロデューサー)、綿野さん

 

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の先にあるもの

――綿野さんは、どういった思いでこの企画マーケットに参加されていますか。

綿野 今回、こちらに来て「映画祭で若手の監督に支援してるんですよ」って話をした時に、色々な国の方々がみんな「ゆうばりに以前参加したことありますよ」と言ってくださいました。ツイ・ハークの奥さんでプロデューサーのナンサン・シーさんを始めとした、審査員4人のうち3人がゆうばりに来た事があって、全員知ってくださってるような状況だったんですよ。

 ご存知のように、ゆうばり映画祭は2007年に市の財政破綻の影響で一旦休止し、2008年に体制を変えて復活してからは、国内のお客さんに向けての映画祭という面が強かったんです。全盛期はビッグな海外スターを呼ぶ事が出来ましたが、当時とは予算の規模が違うので、今はそういう事ができる状況ではないんですね。

 今後は、お客さんやゆうばり市民の方々や日本の映画業界にどう寄与するかという目的意識を持って、映画祭を続けていきたいという思いがあります。その上で国際映画祭として、海外へと繋がるネットワークをどう築いていくかという課題もあるんです。正直なところ、海外の方々が「知ってるよ」って言ってくださるのも、過去の遺産だなって思います。そこをうまく活用していきたいですね。

 去年のゆうばり映画祭でグランプリを受賞した井上都紀さんが、作品を持って世界に出て行くのを見ると、ゆうばり映画祭のオフシアター出身の監督を海外に紹介していくことで、今後ゆうばり映画祭が海外に繋がる架け橋になれるんだと実感しました。

――入江監督はゆうばりのオフシアター部門が、プチョン国際ファンタスティック映画祭という海外への流れがあるという事をご存知でしたか。

入江 ゆうばり映画祭に参加させていただいて、プチョンで映画祭をやるから参加して欲しいという話をいただいて、初めて海外に行けるんだと知りました。そこでやっと海外という事をイメージできましたね。

――次回作の制作といった先があるのは大きい事ですね。

入江 大きいですよ。本当に。

相原 作っただけなら、なかなか次のお金にならないんですよ。それが、ゆうばりの賞金が後押しして次回作が制作できる。1年後に制作っていう制約はありますけど。(注:1年後という明確な制約があるわけではなく、「次年度以降の映画祭で上映する」という約束になっています。)

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レッドカーペットを歩く入江監督

――凄くタイトなスケジュールになるかと思いますが、その辺はいかがですか。

入江 ボクは多分、タイトじゃなかったらダラダラ考えて3年くらいたってしまうと思うんで(笑)。「チャンスは今」っていうタイミングがあるんでしょうね。1本目の井上都紀さんもそうだし。みんな、次のゆうばりにもう一回来たい、作って戻ってくるっていうのが大きいんじゃないでしょうか。

相原 それっていい事だよね。

綿野 いままでグランプリを取られた監督は、短いスパンでいきなりバーンと商業ベースに乗る事が多いんです。受賞監督を支援する体制が組めてからは制作支援という形で監督と深く付き合えるようになったのは大きいですね。今までずっとやりたかった事なんです。

――イキイキしてらっしゃいますもんね。

綿野 なんだかんだ言っても、結局は面白い監督や作品のエネルギーが映画祭を運営するモチベーションになっていますから。

――初めてゆうばりに参加した時はコンペ作品を1本も見られなかったんですけど、今年初めて拝見して、これがゆうばりの柱だったんだって実感しました。

綿野 今年のオフシアターコンペは例年以上のハイレベルな作品が多かったんです。こういう作品があるからこそちゃんとお客さんに知ってもらわなきゃいけないし、そのためには夕張で盛り上げるしかない!って。映画祭の仕事はハードで、結構辞めたくなる事もあるんですけど、辛い時はみんな『ラッパー』を見てました(笑)。

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企画マーケットガイド本

企画マーケット参加者のプロフィール、シノプシスなどが掲載された本。

これを見て出資者がミーティングに臨む。英語と韓国語で書かれている。

■企画マーケットに参加して

――企画マーケットでは、交渉のリクエストが20件ほどあったとの事ですが、具体的には、どんな国の方からのオファーでしたか。

入江 韓国が一番多いですね。その次が香港。やはりアジアが多いです。

――この方たちは実際にこの作品を見てオファーされるんでしょうか。

入江 いや、見てない方がほとんどですね。企画概要を掲載した本がありまして、それを見てミーティングに来てくれます。

――実際にそういった方々とお話されて反応はいかがでしたか。

入江 こちらからどういった企画なのかという話をして、向こうが求めているものが何なのかすり合わせたって感じです。今回企画マーケットに提出したのは『SRサイタマノラッパー』の続編に近い企画で、田舎で女の子がラップをするっていう話だったんですけど、「面白い」って言ってくれる人もいましたね。

綿野 『SRサイタマノラッパー』を踏まえつつ、主人公が今度は20代後半の女性なので更に現実的なドラマティカルな要素が入れやすいですからね。恋愛や、人生のターニングポイントとして出産、子育て……。「これからどうするの?」って20代後半になって初めて考える事ですよね。

――その辺まで話は広がって行くんですね。入江さんは前作からの流れで、今回もラッパーで行こうと思われたんでしょうか。

入江 『サイタマノラッパー』の上映が日本で続く中で、反応が良かった事もあります。個人的にヒップポップが好きなので、女の子のラッパーのグループを主役に映画を作ってみたいというのがありました。

――ご自身で撮りたいものと企画との間に差はありますか。

入江 今まで作ってきたのはメジャーな制作会社がお金を出してという訳ではないので、商品としてのマーケティングはあまり考えてなかったですね。逆に今回企画マーケットに参加して、商品として「メジャーな役者さんが出てるのか」「ストーリーの構造は?」といった指摘をいくつか受けて、マーケットっていうものがあるんだなって再認識したという感じです。ただ、この企画に関しては低予算で制作会社が入ってる訳でもないので、自分が作りたいものを作るだけです。

――それは制作者としては幸せな事ですよね。

入江 幸せですよ(笑)。そこに甘んじてはいけないってさっきミーティングに訪れてくれた海外のプロデューサーに言われたんですけど(笑)。

――なかなかそういう例というのは少ない気がしますが。

相原 結構サクセスケースですよ。自分で配給をやるとか、そこまでやる人はなかなかいないから。そういう話を聞くと「あ、こいつはやるな!」みたいな感じがありましたよ。

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受賞式

『SRサイタマノラッパー』がNETPAC AWARD(最優秀アジア映画賞)を受賞

■自分で映画を配給するという事

――自ら配給をおやりになろうと思ったのはどういうところからですか。

入江 長編1本目がパニック映画みたいな作品だったんです。それを完成して配給会社に任せたんですけど、お客さんに届けるところまで見届けられなかったっていうのがあって。

――何かご自分の意図とは違ったような展開があったんでしょうか。

入江 違ってはないんですけど、自分が係わっていたらもっと出来たかなというのがありまして。宣伝やマスコミの対応、映画館など『サイタマノラッパー』では直接自分で手紙書いて交渉したんですけど、こういった事はやろうと思えばできるじゃないですか。それを配給会社と一緒に足並み揃えて出来なかったのが心残りだったんです。今回は、これくらいの規模の映画だったら出来るんじゃないかという事でやっています。

――お客さんの反応はいかがですか。 

入江 映画と一緒に全国を廻ってるんで面白いですね。今思うと、初めてゆうばりで上映した時の反応が全部、その後のお客さんの反応を表してました。若い人やアメリカの女優さん、熟年の新聞記者、といった幅広い年代の方々から感想をいただいたのが予想外でしたね。

――最初企画された時は、若い方に向けた作品として作られたんでしょうか。

入江 誰に向けてというのはありませんでしたね。誰が見てくれるか分からないまま作ったような状態で。それこそ劇場公開が決まって、宣伝の人と「まず最低限誰に見せたいか」って話をして、初めてお客さんの顔を想像したっていうか。

――それはどんな層ですか。

入江 10代20代でラップをやっている人ではなくて、20代後半とか30代でやりたい事や夢がある人。もしくはそれを諦めた人に見てもらいたかったですね。ティーンエイジャーではなかったです。挫折の経験がある人の方がやっぱり届くんじゃないかと。

――初めて拝見した時、ラストのラップのシーンで、初めて自分の言葉が出てきたところで泣けました。

入江 (笑)何か失敗したり、壁があった人の方が分かってもらえるかもしれないですね。

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受賞式後の記念撮影

左より相原さん、綿野さん、入江監督、ゆうばり映画祭ボランティアスタッフ・キム・ヘジンさん、塩田時敏さん、

CINEMA TOPICS ONLINE大野さん、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭東京事務局長・外川さん

ゆうばり映画祭に持って帰りたいもの

――日本で配給の交渉をするのと海外とでは、違う点はありますか。

入江 海外のマーケット自体が分からないんですよね。どの位の規模の人が見てくれるのかは、国によって違うじゃないですか。韓国と香港でも違いますし。どうやってその国で広めて行くのかというノウハウもないので手探りです。

――交渉されて確実な手ごたえを感じた方はいらっしゃいましたか。

入江 確実な方というのは、特にないですね。やっぱり『ラッパー』を観て、次回作が観たいと言ってくださる方が多いので、何か動くとしたら、観てから動くんじゃないでしょうかね。こっちから提供する判断材料が少なすぎるので。後は次の作品のシナリオを読んでもらって検討していただくしか。

――『サイタマノラッパー』を買ってくれる方と、『女子ラッパー』を買ってくれる方は別ですか。

入江 別々だと思います。でも、同じ一続きとして面白がってくれる人が多いですね。2つ併せてという可能性もあるかも。

綿野 今回参加したことが、すぐにビジネスに結びつくかどうかは別として、他の国の方々から素直に「それ面白いね」と言ってもらえるのが嬉しかったですね。

――日本では、そういった反応を知る機会はなかったんでしょうか。

綿野 私たちが面白いと思ったことが海外の方からも共感してもらえたのは、企画している側としては心強いですね。特に「日本語ラップ」というドメスティックなものをテーマにしているので、国内だけでしか通用しないものになりがちだと思うんです。「企画自体はいいんじゃない」って良い反応が返って来るのが嬉しいですね。また20代後半の女性を主人公にしていますが、周りから抑圧されているといった設定自体に、「なぜ彼女たちは好きに行動しないの?」と海外からの視点で質問されたり。

――企画マーケットに参加してプラスになったことはありましたか。

入江 企画の時点から海外のマーケットにというのは、僕だけだったら絶対にできなかったですし、日本に持って帰れる事も多いと思うんですよ。同じオフシアター出身の監督に「出られるよ」って言えますから。映画祭も、映画祭に係わった人も含めて、得られるものが大きいです。得た分だけ持って帰りたいですね。

――最後に一言お願いします。

綿野 私たちも今回初めて企画マーケットを体験して、日本のインディーズ監督や、面白い企画はあるけど予算がない、国内や海外から予算を集めたいって方々に、現実的な部分でも色々と提案をしていけたらいいですね。ゆうばり映画祭からの流れを作って、監督たちを海外に送り出して行けたらいいなと思っています。

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『SRサイタマノラッパー』(c)NORAINUFILM/CINEMA ROSA

★作品情報:『それいけ!女子ラッパー(仮題)』 2010年劇場公開予定

5泊6日アジア最大級のジャンル映画の祭典への旅@韓国

第13回プチョン国際ファンタスティック映画祭

デューイ松田(ライター)

 昨年に引き続き今年も、周囲に「ああプサン(釜山)映画祭ね」と、勘違いされつつ、アジア最大級のジャンル映画の祭典であるプチョン(富川)映画祭に参加した。

 今年は参加前からテンションが地面すれすれだった。インタビューの予定がことごとくダメになった上、体調が悪いまま現地入りという体たらく。

 しかしさすがはケンチャナヨ(大丈夫)精神の韓国。何が起こるかわからない。終わってみれば思いがけないインタビューの機会に多々恵まれる結果となった。『吸血少女 対 少女フランケン』西村喜廣監督(共同監督:友松直之)、『SRサイタマノラッパー』入江悠監督、『長髪大怪獣ゲハラ』田口清隆監督、『大拳銃』大畑創監督と主演の宮川ひろみさん。スケジュール変更のためインタビューがキャンセルになった安藤サクラさんとも遭遇できた。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭関係の方々にもお世話になった。

 最も印象的なシーン は、西村監督の舞台挨拶だった。インタビューをさせていただいたご縁で『吸血少女』の舞台挨拶に行くと、西村監督から「手違いで通訳がいないから、手伝ってよ」と詰め寄られた。まったく自信がないままスタッフに監督が上映前に挨拶したがっている事を伝えたが、ややこしい会話になると、太刀打ちできない。「駄目じゃん」。3分で解雇。諦めない監督は、舞台挨拶に突入。

 「この中で日本語が分かる人!通訳を頼みたいんだけど」監督の呼びかけで、何人も挙手があり、若い男性が登壇。観客を上手くリードして質疑応答が行われる様子に西村監督・バイタリティの真髄を見た。

 翌日のオールナイト企画では、『吸血少女』、韓国発ゾンビオムニバス『The Neighbor Zombie』、シンガポールインドネシア発モーブラザーズ監督『Macabre』との3本立て上映。若い観客で約800席の8~9割方が埋まる大盛況の会場を掌握したのが『吸血少女』だった。萌えキャラを好演する川村ゆきえさんに歓声が上がるくらい観客はノリノリ。

 コンペのプチョンチョイス短編部門で、5本の短編とともに上映された『大拳銃』も印象的だった。意外なシーンで笑いが起こったり、感嘆の声が上がったりと盛り上がる。舞台挨拶に主演の宮川ひろみさんと大畑創監督が登壇。大畑監督に質問が集中して、他の監督が少々気の毒だった。

 ボックスオフィスでは、下手な韓国語でスタッフの手を煩わせたが、手厚い対応が有難かった。

 一番美味しかったのは、毎日通った屋台のおでんと真っ赤なトッポギ。姉妹で屋台を営むアジュンマたちとたどたどしく話すのが楽しかった。昨年チケットトレードで知り合った年上の友人キムさんに再会できたのも嬉しかった。

 最大の愚行は、パンツの後ポケットに入れたi-phoneをトイレに落とした事。その2日前にデジカメが壊れていて、カメラ全滅の危機に直面した。

 期間中に鑑賞したのは、長編14本(重複を含む)、短編6本、ロードショー作品1本。印象に残った作品は、フランス発パスカル・ロジエ監督『マーターズ』、クロード・シャブロル監督の『Bellamy』。ドイツ発Andress Schaap監督『Must Love Death』。韓国発パク・チャヌク監督の『Thirst』。アメリカ発ブルース・キャンベルが監督した『My name is Bruce』、カイル・ランキン監督の『ビッグ・バグズ・パニック』など。

 会場の1つ、シネコン・プリモスがあるショッピングモールではテナントがほぼ撤退していて、不況の影響を痛感させられたが、映画祭終了後の公式発表によると、期間中の動員は4万6194人。この数字は過去最高で、昨年の動員より5.5パーセント増との事だった。

 来年のプチョン映画祭リベンジは、インタビューの充実。監督だけではなく、観客にも感想を聞く事。もちろん韓国語で。

<プチョン国際ファンタスティック映画祭MEMO>

ゆうばり映画祭をモデルにして誕生。会場があるプチョン市は、ソウル市から地下鉄で約40分ほどの85万人が生活する大都市。今年の開催期間は7/16~26。今年は41カ国から、121本の長編と80本の短編が出品され、うち37本がワールドプレミア。日本映画の上映も充実、招待作品はオープニングを飾った『MW』や短編ではゆうばり映画祭で好評だった作品群を含む合計26本。