映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

「石井聰亙作品集 DVD-BOX」<br>石毛栄典(トランスフォーマー)インタビュー

映画会社が自社で権利を保有している作品を集めたDVD-BOXと違い、撮影所の後ろ盾がない場所で活動してきた石井聰亙監督のDVD-BOXリリースが困難を極めたことは容易に想像できるのではないでしょうか。1作ごとに違う体制で製作された作品の権利関係をひとつひとつ粘り強くクリアし、ひとつの箱におさめ商品として流通させたのが映像製作会社トランスフォーマーです。毎月定期的に数タイトル、洋画や音楽ドキュメンタリーのDVDを中心にリリースしている同社ですが、その一方で、磯見俊裕率いる美術会社「ウォーターメロン」との合併、山本政志監督『聴かれた女』の製作、そして、本ウェブサイトでもインタビューを掲載した、東京藝術大学大学院映像研究科卒業生(池田千尋監督、大石三知子脚本)をいち早く起用した最新作『東南角部屋二階の女』(現在撮影中)と、単なるDVD会社とは異なる活動体としての姿が、映画ファンにもはっきり認識できるようになってきました。そこで、今回はトランスフォーマーの活動の秘密をさぐるべく、代表の石毛栄典さんにインタビューをお願いしました。

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──今日はトランスフォーマーの活動を支える石毛さんの理念について話を聞きたいと思ってうかがいました。

ばらばらに見えるかもしれないけど。なんで『ボビー・オロゴンの日本文化講座 美しい国、ニッポン。』のようなバラエティをDVDオリジナルで製作したり、『セリエA』 のようなサッカーや『バイオ・ハザードX』のような洋画をリリースしているのかと言われるけど、僕のなかでは全部つながってる。社員みんなにいま面白いと思わないことはやらないでくれと言ってるんだ。なぜかというと、映像って物書きとか音楽みたいに個人でやるのと違って団体競技じゃない? 団体競技だけどいろんなセクションに分かれてバラバラに仕事をしている。ある強烈なイデオロギーで彼らを集めているわけじゃないから、それぞれ好きなことをやってほしいんだ。お金のために嫌なことをやっても継続しないんだよ。継続しないと組織が疲弊してダイナミックなアプローチもできなくなる。だったら本人が強烈に面白いと思えるものをやってほしい。それに共感してくれる人は全国で300人くらいいるんじゃないか。その300人をいかに3000人にするためには別の知恵が必要だけど、基本的にはそういう方向で考えて企画には取り組んでるね。

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──要するに利益をあげることだけを優先しないと。

ケツから入っていくと面白くない。ケツ合わせでいくと製作委員会方式になる。テレビ局が重要なファクターで、次に、俳優、原作、監督と脚本、を誰にしようか。そういうやり方があっていいけど、アジアというカテゴリーでは勝てないよ。先週、『東南角部屋二階の女』という新作がクランクインしたけど、美術の会社(「ウォーターメロン」)と僕らが合併したのが2年前で、うちへ来たいという人は誰でも受け入れるのが基本的な姿勢だから選曲の子もいるわけ。そのなかでみんなバラバラな作品をやっているけど、一つくらい集った証しがほしいねと話していて、じゃあやろうと。いま日本からインディペンデント映画がなくなってしまうという危機感もあって、脚本を転がしていくうちに、スタッフも増え、インディペンデントのあり方を理解してくれる人に集まってもらった。役者もそう。俺たちは口を出さないし、そのためにホンを変えたくないから、大人の都合ではなくて演出都合で監督に選んでもらってる。それは普通の映画の作り方であるはずだけど、それをやってみたかった。演出のことだけ考えていればいいということを全体で転がして運動を楽しむ場にしたいんだ。

──トランスフォーマー設立時から製作は考えていたんですか。

うちは15年くらい前に受注の製作会社として始まって、仕事だからシンドイのは当たり前だけどモノをせっかく作っているんだから、僕らのスケジュールで作りたいと思い始めたんだよね。7、8年前かな。映像はアウトプットが限られていて、上映、放映、ビデオしかない。そうするといちばん手っ取り早いのはビデオだと。ビデオメーカーにいたので取引相手はわかっていたけど、いきなりデビューするとなると口座(取り引き)の問題があるから店に置いてくれない。それで最初は誰もやってないコンビニに目をつけた。当時は白夜書房がパチンコモノをやってたくらいだったから。でも口座をあけるまで半年かかったね。

──売れましたか。

パチンコものをやったんだけど、3ヶ月で白夜書房を抜いた。簡単だよ。出版社はどこかのプロダクションに100万円を丸投げしてオーダーしてる。そうすると、受注したほうはその範囲でしかモノを考えない。ところが僕らは同じ100万円でも売れたら儲かるからすごく頑張るからね。彼らのは教育テレビのハウツーみたいでまっとうだけど面白くない。そこでショッカーみたいな悪者を出して捕物ドラマ仕立てにしたら毎月1万本くらい売れた。すると今度は別のコンビニからも注文が来てものすごく売れたよ。でも二年間くらいしか春はなかったね。万引きされるんだよ。それでレジ奥に置かれるようになって、売り上げが5分の1になった。それでやめたの。

──潔いですね。次は何をされたんですか。

その頃に営業が入ってきたので、レンタルネタを考えようと。ただ、これも今まで取引がなかったから強烈なネタじゃないと口座が開かない。それで『バトル・ロワイヤル』のパロディを作った。誰もやらないことをやると、売れるかどうかは別にして注目は浴びるよね。風当たりは強かったけど、流通では受け入れられてすごい売れたね。そんな感じで、毎月、自分たちの作品を出すのが理想だけど、お金も時間もかかるから年に2回くらいかなと。それで洋画のビデオをリリースし始めたけど、最初はどうやってラインナップを埋めればいいかわからなかった。でも面白がりながらやってるよ。『パイレーツ・オブ・カリビアン』がヒットして皆同じような作品をリリースしているときはラブコメをやったり、彼らとは違う方向に行こうとしている。

――常にいまの動向を見ながら判断しているということですね。

ただ、海外の買い付け自体はそんなに難しくなくて、大体ビジュアルとタイトル、それと予告篇を見て買ってる。中味は見ない。見るとあれ? と思っちゃうから(笑)。

――それは消費者の視点と同じですね。

本は中味を見て決めるけど、DVDはパッケージだけだからね。そこでどれだけ遊べるかはいつも考えているな。うちは会議をしないんだよ。用事があったら声をかける。企画は飲み屋で決めてるしね。

――音楽物のDVDをリリースしているのは、どういう経緯で?

セルの流通を持ってなかったから、セルをやりたかったんだ。音楽物はセルが多いじゃない。石井さんのDVD-BOXもインディペンデント専門の問屋はあるけどやりとりの時間があると薄まるから、直接取引したいんだ。作ったものについては異常に思い入れがあるから大事に売りたい。このパッケージだって特色2色に金色も入れた。普通、こんなことをしないでしょ。愛です(笑)。お客さんが喜んでくれるものにしたい。商売で考えると経費を抑えるけど、それだと買ってもありがたくないじゃない。メジャーの洋画DVDだと2枚でいくらとか安売りしてるけど、八百屋じゃないんだから、いつまでも価値あるものを一山いくらにはしたくない。

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――石井監督のDVD-BOXを作るきっかけはなんだったんですか。

山本(政志)さんだね。10年くらい前に『熊楠』の支援運動をやってて、その進捗報告会をLOFTでやったときに山本さんと会ったんだ。そこで山本さんに低予算でもいいから撮ったらいいんじゃないですかと言って、そこから『JUNK FOOD』(98)という作品が生まれるんだけど、それが映画との初めての関わり。山本さんは垣根を越え世界に対してアプローチをしていく。山本さんならではのやり方だけど、作品には貴賎がないし映像は国境を越えていく、その心構えをいっぱい教えてもらった。非常に参考になったな。フォーマットにしちゃいけないということだよね。

──映画はもともとお好きだったんですか。

僕は新宿LOFTで育ったようなもので、1に音楽、その次に映画という感じだったけど、映画で話題に出るのは石井さんと山本さんだった。その石井さんとまさか一緒に仕事するとは思ってなかったよ。DVDって複製物で過去の作品だから、クリエイターの人はあまり興味がないんだよ。特に石井さんは8ミリ出身だから、上映を重ねるうちに消えていく物だという意識もあったみたい。でも『狂い咲きサンダーロード』はいつでも見られる環境にしておくべきだし、併せて他の8ミリとかの作品も封印はいけないと提案してみたら、わかりましたと石井さんは預けてくれた。

――権利関係をクリアするのが大変だったと聞きましたが。

大変だったけど、やればできるよ。物理的にこじれていても熱意だと思うな。追い込んでダメなときもあるけど、多くの場合やらないだけ。僕はやればできると信じています。

――石井監督の魅力はどこにあると感じていますか。

昨年末にリリースした1が「PUNK YEARS 1976-1983」で、今回の2が「PSYCHEDELIC YEARS」と名前をつけたけど、あらゆる予定調和から外れてる。いちいちおかしいもん。画にも音にもエネルギーがあって世界でも稀有な監督だと思う。また撮ってほしいですね。

――来年2月に公開される『ファーストフード・ネイション』は配給もされるそうですね。

去年のカンヌ映画祭で話題になったんだけど引き合いがなかったみたいで、僕らでできることになった。これから配給をやっていこうとは考えてないけど、配給と宣伝は大事だと思っていて、自主製作ではその壁にあたる。だから、配給を経験すれば映画について一通りなんでもやれると思ったんだ。

――たんに業績をあげようというより、面白いことをやるためにはいろいろな人を巻き込んだほうがいいし、一方向ではない形で組織が動いている感じがしますね。

僕の鶴の一声で決めてないし、もちろん経営者と労働者という溝はあるけど、同志的なつもりで会社を動かしているね。若い人のほうがいいアイデアを持ってる場合が多いし、彼らのほうが客に近いからね。だからどこに転がっていくかわからない。方向性はあるけど、先に数字で入っていかないようにしてる。そこに発展的なものは生まれない。なるべくやりたいことを追い込んで数字があがるようにして、それでも無理なら諦めるということかな。宣伝だって代理店に依存するやり方は違う。雑誌の人と話をすると、活字離れだからとか言い訳するけど面白いなら読むよ。面白くないからだよ。どうアプローチしたら読んでもらえれるか考えないから、みんなオダギリジョーが表紙になる。皆さんの好きなコンテンツという言葉があるけど、コンテンツについて真剣に考えている奴は少ない。方程式にあてはめようとするでしょ。安易だよ。

――最近の若い監督についてはどう感じていますか。

石井さんが『突撃!博多愚連隊』や『狂い咲きサンダーロード』を撮ったのが20代前半ですよ。だから熱意だけだよ。その熱意が足りないんじゃないかなあ。それでないとアジアに勝てない。でも、可能性ある奴はいっぱいいるからうまく拡げたいね。海外に向けてとか、海外の人と作っていきたい。できると思うよ。

――活動の幅は広がっていきそうですね。

ルーティンワークって飽きるんだよね。常に選択肢は2つあるんだけど、最終的にはどちらに進んでもあまり変わらないよ。立ち止まるのはダメ。間違ったほうでもいいから選択して前に進んでいきたいね。

――話をうかがってトランスフォーマーという社名通りの活動体だと思ったのですが、設立当初からその意識はあったんですか。

会社名はルー・リードからとったから、あまり意識してなかった(笑)。でも、確かに「変容していく」という意味だから、うちの会社に合ってる名前だったね。

(取材・構成:武田俊彦)

【映画/DVD情報】

■「石井聰亙作品集DVD-BOX ~PSYCHEDELIC YEARS~」

DVD7枚組(特典ディスク含む)+CD1枚/本編377分+特典230分

特典 特典映像ディスク オリジナルブックレット 『逆噴射家族』オリジナルサウンドトラック復刻盤CD

収録作品:『水の中の八月』『THE MASTER OF SHIATSU 指圧王者』『逆噴射家族』ほか

定価:24990円(税込)

発売日:2007年12月22日(土) *発売中

販売元:株式会社トランスフォーマー

http://www.transformer.co.jp

『高校大パニック』『狂い咲きサンダーロード』ほか初期作品を収録した「石井聰亙作品集DVD-BOX氈@~PUNK YEARS 1976-1983~」も現在発売中。

〈イベント〉

「DESTROY YOURSELF All about 石井聰亙 in Tokyo」

2008. 1/19(土)~2/1(金)開催!

<各回21:00より上映>

1/19(土)『逆噴射家族』ゲスト:石井聰亙監督

1/20(日)『ロンリープラネット』『鏡心』完全版

1/21(月)『高校大パニック』『1/880000の孤独』『突撃!博多愚連隊』

1/22(火)『シャッフル』『アジアの逆襲 REMIX LIVE VRESION』

1/23(水)『爆裂都市/BURSTCITY』

1/24(木)『半分人間』『THE MASTER OF SHIATSU指圧王者』

1/25(金)『狂い咲きサンダーロード

1/26(土)『水の中の八月』ゲスト:石井聰亙監督+小嶺麗奈さん

1/27(日)『ユメノ銀河』

1/28(月)『エンジェル・ダスト』

1/29(火)『Tokyo Blood』『THE MASTER OF SHIATSU指圧王者』

1/30(水)『DEAD END RUN』『ELECTRIC DRAGON 80000V』

1/31(木)『五条霊戦記 GOJOE』

2/ 1(金)『DUM NUMB LIVE FRICTION 1989』『THE ROOSTERS RE-BIRTH2』

会場:ユーロスペース

TEL:03-3461-0211 www.eurospace.co.jp http://www.eurospace.co.jp/

当日一般1400円 大学・専門学校生1200円 会員・シニア1000円

ぴあミニシアター回数券もお使いになれます。

2月1日は通常料金です。

連日12時より入場整理券を劇場受付にて発行いたします。

「DESTROY YOURSELF All about 石井聰亙 in Osaka」

2008年2月16日(土).17日(日)開催予定

上映作品『逆噴射家族』『水の中の八月』ほか

会場:浄土宗應典院(地下鉄谷町九丁目日本橋下車、それぞれ徒歩5分)

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■『ファーストフード・ネイション

脚本/監督:リチャード・リンクレイター

原作/脚本:エリック・シュローサー

出演:グレッグ・キニア ポール・ダノ イーサン・ホーク パトリシア・アークエット 他

原題:FAST FOOD NATION 

2006年/米英合作

配給:トランスフォーマー

2008年2月、ユーロスペース他、全国順次ロードショー

■『東南角部屋二階の女

監督:池田千尋

脚本:大石三知子

撮影:たむらまさき

出演:西島秀俊 加瀬亮 香川京子 高橋昌也

製作:トランスフォーマー

2008年公開予定