『そんな無茶な!』は、『牛頭』、『殺し屋1』などの脚本や『東京ゾンビ』の監督で知られる佐藤佐吉が今の邦画状況に叩き付けた挑戦状である。
「ヒットしさえすりゃいいんだよ」、「観客なんてアホだから、この程度の映画を観せてりゃ喜ぶんだよ」、「泣ける純愛映画ならいいの」……そんな腐ったミカンの方程式で作られ続けるクサレ映画やオサレ映画に対し、闘いを挑むのだ。ここで立ち上がったのは「無茶こそ我が命!」とする4人の若手監督。作品は以下の4篇。
1.全裸歌手のドキュメンタリーが撮りたい!
→「彼女が歌う理由」by本田隆一監督
2.おばあちゃん同士の純愛を撮りたい!
→「おばあちゃんキス」by井口昇監督
3.原作者自らの監督・主演で「東京ゾンビ」をリメイクしたい!
4.製作費を全額宝くじにつっこみたい!
→「アブヤコワ」by真利子哲也監督
プロデューサーの佐藤佐吉氏に話を聞いた。
佐藤佐吉(プロデューサー)
──映画は4人の企画ですが、始めは企画は何人ぐらいからあったのでしょうか?
プロット出しは8人ぐらいからありました。ただ、せっかく作るのなら普通の映画ではなくて、何かヤバいもの、つまり「こんなもの観ちゃったよ!」と思える作品にしたかったんです。狂った映画じゃないとダメでしたね。
──最終的に選んだ基準は?
作る側は無茶をしつつ、観る側が楽しめる作品ですね。一般の人が観て笑えること。ただ、そう思って企画にOKを出すのは自分の基準なので、出来たものがそうなっているかは分からない(笑)。例えば、「おばあちゃんキス」は自分は楽しめるけど、ひく人もいるかもしれない。でも、それでいいんです。最終的には自分が観てみたい作品ですから。
──その井口さんの作品は、おばあちゃん同士がキスするおばあちゃん女優が見つかりましたね。
井口さんは「おばあちゃんキス」以外にも、井口さんの興味あるフェチを追った「少女のコスプレもの」の企画を出してきたんだけど井口さんにしては普通すぎるから企画を通らなかった。「おばあちゃんキス」は脚本が素晴らしかったので、すぐに準備にかかったんだけど、おばあちゃんのキャスティングはとても苦労しましたね。井口さんに「見つからなかったら、お母さんを出すことになるよ」と言ったら、必死になっていましたね(笑)。オーディションしたら、映画に出ている3人以外にもう1人いたんだけど、見るからに事務所に言われてイヤイヤ来ましたって感じなんですよ(笑)。シナリオは事前に渡してありますからね。メガネのおばあちゃん役の人は、なぜかやる気マンマンでした(笑)。CMに出ていたりと、みなさんキャリアもある方なのに出ていただいて感謝しています。
──「彼女が歌う理由」はテレビ局に売り込みに行くシーンでの見方によって評価が別れそうですね。
いろいろありますが、あそこはあれでいいんです……よ(笑)!
──「東京ゾンビ外伝」はしっかりした作品になっていていい意味で驚きました。個人的には一番好きな作品です。いろいろと仕込みがかかりそうなシーンがありましたが、予算内に収まったのでしょうか?
目に見えないところにお金がかかっていますが大丈夫でした(笑)。花くまさんは初の映像作品なのに見事な演出力で唸りましたね。
──監督本人が主要キャストですが、すぐにテレビをかぶってしまいますね。
でも、あれも花くまさん自身がTVをかぶっているんですよ(笑)。それで演出もやるんだから、すごいです。シナリオも見事でしたし、マンガ家だけあって全シーンの絵コンテも描いてきていました。
──佐吉さんも出ていましたね。大量の血を浴びていました(笑)。
あのシーンは血が多すぎて表情が作りづらくて無表情になってしまって、借りてきた犬みたいになっちゃっている(笑)。あの映画でいいのは、サーカスのシーンでのフリークスたちの踊りですね。花くまさんの大好きな『バス男』(Napoleon Dynamite)のクライマックスの踊りを参考にしているんです。
「東京ゾンビ外伝」
──「アブヤコワ」の真利子監督はどういう経緯で参加したのでしょうか?
真利子くんとは、ゆうばり映画祭に彼が出品して参加していたときに知り合っんです。何か破壊的な映画でとても印象に残ったから、声をかけたんです(笑)
──「アブヤコワ」も破壊的な映画でしたね。100万円の製作費を全額宝くじにつっこんで1億円をあてるという(笑)。
始めは全く違う100人ぐらいの出演者が出てくる企画を考えていたらしいんだけど、アイデアをまとめきれず、一旦はあきらめますと電話をしてきた。ところがその30分後に電話してきたのがこの企画だったんです。どうしても何か撮りたくて考えついたんでしょうけど、「アブヤコワ」の終盤を観ても分かるけど追いつめられると才能を発揮するタイプですね。逆ギレもするんですが(笑)。ラフで60分あって本人がどうしても切れないというので松江くんに編集で入ってもらったら、とてもテンポがよくなりましたね。
──松江くんは『そんな無茶な!』の予告編も作っていますね。
渋谷の駅前のスクランブル交差点で撮った、あの予告編は無茶でしたね(笑)。
──「アブヤコワ」の終盤が撮られた経緯は?
あのままでは終わることができなかったし、ハウツー本として売る企画もありましたからね。“映画の神様”が降りてきたということにしておきましょう(笑)
──最近、すごい映画を観たと聞きました。
この間観たんですけど、中学生が撮った『ブラックシルバー』という映画が凄いんですよ。兄弟で作っていて、段取りもへったくれもない映画文法的には滅茶苦茶な作品なんですけど、プリミティブなパワーがあるのと、映画以外の何者でもないんですよ。この作品も特別上映する日があるので、あくまで『そんな無茶な!』をメインの目的で来ていただいたうえで(笑)、よかったら観てもらいたいですね。
取材・構成:わたなべりんたろう(ライター)
【上映情報】
2007年9月8日(土)より
シネマアートン下北沢にてレイトショー!(毎日夜20:30より上映)
全国順次公開!
なお上映期間中、舞台挨拶、トークイベントを開催
〈舞台挨拶〉
9月8日(土)佐藤佐吉、本田隆一、井口昇、花くまゆうさく、真利子哲也
〈トークイベント〉
9月22日(土)佐藤佐吉VS中学生監督 <特別上映>『ブラックシルバー』
9月25日(火)スペシャルゲスト
詳細は『そんな無茶な!』オフィシャルサイトまで