映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

学生による学生のための学生映画体験レポ<br>「京都造形芸術大学ケンカ腰上映会レポート」<br>斗内秀和(学生)

 9月19日、20日に、京都造形芸術大学(以下、京造)で、学園祭に合わせて、京造映画学科の主催による「ケンカ腰上映会」が行われた。これは11月に開催される京造映画祭の番外編企画として、映画祭で決定される全国の学生映像作品を対象とした京造アカデミー賞に応募された作品の中から、京造映画学科の作品と他大学他校の作品を対戦形式で上映していくというものであった。時間は両日午前10時から午後6時半、場所は京造人間館映像ホール、1日8対戦(16本)、計32本の学生映画が上映された。  32本大まかに上映時間で分けると、5分前後の作品14本、20~30分前後の作品13本、1時間前後5本となる。5分前後の作品はアニメーション、ミュージックビデオ風なものが多く、内容はファンタジックでシュールなものがほとんど、メッセージ性が強い。30分以上の作品はストーリー性を楽しめる劇映画となっている。個人の魂の核心にくいこもうとしたり、人生の重要な場面、ターニングポイントを描こうとする野心が感じられる。又、開き直った娯楽作もあった。主人公となる人物はほぼ100%若い人(高校生、大学生)である。  劇映画の中から具体的に紹介する。 ケンカ腰上映会/看板.JPG 上映会入り口  初日。大阪芸術大学、中里駿平監督『ツジキリヒト』(85分)は、今回上映時間が最も長い作品。失踪したカリスマ映画監督をめぐって沢山の登場人物が入り乱れるドタバタ活劇。謎をとき、追っかけ、銃撃戦、大人数による乱闘と目まぐるしく展開する。映像は鈴木清順、特に『殺しの烙印』の影響が強い。終盤、『猿の惑星』『山椒大夫』『宮本武蔵』『明日に向って撃て』など名作を下じきにしたラストシーンをつないでいき、フェリーニ風カーニバルで大団円をむかえる。映画好きには楽しい映像体験だが、起承転結貫く太いストーリー性に欠け、雑然とした印象を受ける。つまるところ、名作映画の記号の羅列だけで終わってしまったのではないか。『ツジキリヒト』と対戦したのは京造、大槻直貴監督『獅子座の男』(64分)。反政府組織と一匹狼の男の対決を描く。さながらアクション百科の如き映画である。こちらもアクションへのこだわり、銃に対するマニアックぶりがありありと見てとれる。カーチェイス、銃撃戦、ナイフ戦から素手による格闘までアクションシーンはていねいに作られているし、主人公の行動ととぼけたキャラクターのギャップや、ずれた会話がユニークで笑いをさそう。が、やはり、アクションの羅列だけでは単調で、子供が好みのおもちゃで喜々として遊んでいる、といった幼稚さと紙一重である。 獅子座の男.jpg 『獅子座の男』  京造、山本純子監督無花果のはらわた』(32分)は、レイプされて精神を病みフラフラ動き回っている姉、その姉に近親相姦的愛情を抱いている中学生の妹、姉をレイプしたストーカー少年、三人三様の閉塞状況を描く。レイプ、初潮、腹から出てくるへその緒等、刺激的な描写の連続である。対する大阪芸術大学、岡田真樹監督『キレる』(23分)は直球のホラー映画。キレて上司を殺した中年男とまきこまれた学生が、真夜中、山間の公衆トイレで死闘をくり広げる。男のゴム長靴、スコップなど小道具の見せ方、闇の中の照明で恐怖をあおる。中年男はゾンビ化し、最後の最後まで徹底的に恐がらせる。  初日のラストは青春映画対戦。京造、柴田有麿監督『QULOCO』(35分)。少々自信なさげな男子高校生の元に、黒子が4人現れる。黒子たちは四六時中彼のそばにいて、家庭、学校、外で、ことあるごとに優柔不断な彼の後押しをする。黒子は主人公にだけ見えて、まわりの者には見えない。ポッチャリ体型の主人公の雰囲気と、彼の焦った様子がほのぼのとしたユーモアをかもし出す。黒子たちに助けられ、主人公は少しずつ自信をつけ成長していく。黒子たちは彼を見守りながら、やがて消えていく。唯一の白黒映画で、黒子が出現する独自の世界を獲得している。対するは、日本大学、市川雄二監督『バトンタッチ』(31分)。気弱で孤独な男子高校生が走ることによって仲間を得て成長していく。冒頭、主人公は不良に追いかけられて逃げるために走る、次に陸上部に入らざるをえなくなり仕方なく練習に参加する、が、ラストの部の存続を賭けたリレーでは仲間とひとつになってたくましく走るのである。定番のスポーツ青春もので、友情、ライバル、挫折、克服などお決まりのアイテムは全て揃っている。が、これだけの内容を30分でおさめようとするのは無理がある。俳優陣は大いに健闘しているので、時間を増やして個々のエピソードをじっくり描けば、主人公の変化成長の過程にもっと説得力を持たせることができただろう。 バトンタッチ.jpg 『バトンタッチ』  この日は午後、京造映画学科の教授である高橋伴明監督が顔を見せていた。この上映会では、映画祭でプレミア上映される、高橋監督が京造学生スタッフと製作した映画『MADE IN JAPAN―こらっ!―』の予告が何度も流されていた。  2日目。家族を描く対戦はまず、京造、藤本啓太監督モカ珈琲』(25分)。一人ぐらしに疲れた男子大学生の主人公が、故郷岩手に帰る。暖かく迎えてくれる家族、知人、友人との会話と、田舎の風景、空の青さ、モカ珈琲の苦さなど、時間が流れても変わらないものがあることを再認識して癒される。対して宝塚大学信濃政隆監督『sisters』(29分)は、田園風景の続く地方都市にくらす一家の物語。優等生で本音を隠す姉と、奔放な妹をめぐって、葛藤と和解を描く。どちらの作品も、風景の中で人間が歩く、走る、立つ、話す、自転車で走るといった場面が多く、土地と人間との結びつきとか関係性を映像であらわそうとしているように思えた。その試みは『モカ珈琲』ではある程度、成功していた。主人公が帰郷して、故郷の土地に抱かれ癒されていく心境が率直に描かれていたし、土地と人間の親和性を感じさせた。一方、『sisters』の人間たちは行動も感情も常に荒々しく、最後まで土地と人間は水と油で、せっかくの目に優しい緑いっぱいの田園風景が生かせてなかった。 モカ珈琲.jpg モカ珈琲』  2日目のハイライトは、午後に行われた京造、片岡大樹監督『Wonderlands cloudland!』(55分)と大阪芸術大学、西中拓史監督『APE』(62分)の対戦だった。この回だけ観客が満員となり、上映後、それぞれの映画の監督が登場して対面、インタビューを受け、大いに盛り上がった。『Wonderlands cloudland!』は夢を題材にしている。3人の男が遭遇する。場所はビルの廊下、男の自室、ビルの屋上、酒場等で、爆発や落下であわや、と思うや、以前の場所、以前の場面にもどってくる、ということをくり返す。片岡監督はフィリップ・K・ディックに触発されたと語っていたが、どこまでが夢でどこからが現実か判断しづらく、混乱した。『APE』は力作。一年前の女子高生殺人事件の犯人の男子高校生と、事件の真相を追う男子大学生、時制のちがう二人の日常を交互に映していく。最初、全く対照的に見えた二人が大学生の行き詰まりという点で重なっていく。そして又、二人は明暗正反対の道をたどる。青春の危機的状況に際して、破滅と希望が効果的に描かれていた。西中監督はこの作品に3年半かけたそうで、やりつくした満足感と達成感がうかがえた。 APE.jpg 『APE』  最終対戦はまず京造、吐山由美監督『天球のおんがく』(30分)。歌を歌い続ける少女が出てくる。彼女の透き通った歌声が全編にわたって流れ続け、作品世界を支配する。彼女の声に誘われるかのように飛び降り自殺する人々。迷える子羊のような高校生たちにとって、彼女の歌声は天国からの誘いなのか。対する大阪芸術大学、牧野裕也監督『Here Comes the Sun』(16分)は、睡眠自殺を図った少女の臨死体験を映像化している。白々とした光の中、街には誰一人いない。そこを少女はさまよい歩く。その果てで、彼女は死神に出会う。再び、目ざめた彼女は生の喜びがあふれている。自殺防止の広告フィルムのような作品だった。この映画で、2日計17時間に及んだ「ケンカ腰上映会」は幕をおろした。 天球のおんがく.jpg 『天球のおんがく』  全作品ではないが30本近い映画を見て、学生が作り手ということでほとんどの作品に共通して流れているのは、思春期、青春期の危機的状況、行き詰まり状況と、そこをどう切り抜けていくかという問題意識だったように思う。その同じテーマを映像作品にすると、こんなにさまざまな表現方法があるのかと興味深かった。京造アカデミー賞は「作るだけが映画じゃない。観せてこそ映画である。」を合言葉にしている。学生が学業の一環として作った映画なので、基本的に製作自体を目的に作られたであろうことは十分承知の上で、それぞれの映画がその「観せてこそ」という条件をも、どれだけ満たしているかどうか検討してみよう。  まず徹底して娯楽志向の作品群。アクション映画の『獅子座の男』、ホラー映画の『キレる』、スポーツ青春映画の『バトンタッチ』等である。どれもジャンル映画の約束通り進んでいくので、新鮮味はないが安心して楽しめる。わかりやすく通俗的、観客の間口は広そうだ。 キレる.jpg 『キレる』  次にテーマ性が突出した観念的な作品はどうか。ここでは無花果のはらわた』『天球のおんがく』に言及しておきたい。『無花果のはらわた』は生活感のない(家族が全く見えない)登場人物たちが過激で刺激的な行為をくり広げる。発狂、レイプ、出血、ストーカー行為、いじめ、泣く、叫ぶ、と重く緊張したシーンの連続で観客は息が詰まってくる。14才、第二次性徴期、初潮等、テーマを暗示する描写が散見して、作品にこめる思いの深さは伝わってくるのだが。『天球のおんがく』は冒頭、飛び降り自殺を、ドキュメンタリー映画のような迫力のあるリアルな映像で見せて度肝を抜き、一気にひきつけるが、その後の学園ドラマになると急速に現実感を失い、絵空事になる。歌姫、揺れ動く少年少女たち、天使の羽根、少女たちの飛び降り、とどんどんファンタジー色が強くなり、脈絡がつかみにくくなる。これがどの世代にも受け入れられるとは思えない。どちらの映画も出会うべき人が出会えば、非常に大切な作品となるにちがいないが、それはかなり限られるだろう。残念ながら、これらの映画は観客の間口は狭そうだ。 無花果のはらわた.jpg 無花果のはらわた』  さて娯楽一辺倒でもなく、観念にも走りすぎない作品もあった。『QULOCO』『APE』である。まず両作品とも現実感、生活感がある、主人公の日常生活、学校や家庭での様子、友人、家族との会話等、ていねいに描かれていることによって、主人公がリアルな存在感を持ち、観客は違和感なく映画の世界に入っていける。そこを押さえたうえで、映画はテーマに切り込んでいく。さらに『QULOCO』はコメディ、『APE』はサスペンスという味付けによって、映画を楽しみながらいつのまにかテーマ性にひきこまれ、結果、観終わって深い感銘をもたらしてくれた。若者が主人公の映画だが、観客の年齢層は問わないだろう。ということで、この二作品が「作るだけでなく観せてこそ」の映画と呼ぶに最もふさわしい映画だった。 QULOCO.jpg 『QULOCO』  主催者である京造映画学科によると、この上映会の主旨としては、京造アカデミー賞に他大学他校から予想以上に多くの応募があったので受けてたとう、迎えうとうとの意気から、そして、京造アカデミー賞の宣伝のためということだった。というわけで「ケンカ腰上映会」と銘打たれたのだろうが、ケンカを売る気などさらさらなく、こんなに沢山応募してくれてありがとう、という感謝の意と、この機会に他大学他校と交流を深めようとの志向がうかがえ、終始なごやかな空気が流れていた。それは会場のムードとしては悪くなかったが、ケンカ腰が及び腰になってしまった結果、中途半端で熱気に乏しい面も感じられた。対戦形式ということで、毎回観客にアンケート用紙が配られ、点数を記入してもらい、その集計で勝敗を決めるという方法をとっていたが、観客は流動的で徹底できず、効果的に機能できていなかった。それでも同ジャンルの作品を対戦と称して並べて上映することにより、製作に参加した人々にとっては気づくところ、学ぶところ、刺激になるところが多々あったのではないだろうか。例えば、京造映画学科では、他大学他校と比べることにより、先ほど述べたように、テーマ性を追求するあまり観念的で難解になりがちという傾向が見えた。それらが今後の映画製作に生かせれば幸いである。 ケンカ腰上映会/会場.JPG 上映会会場  集客状況はちょっと寂しい気がした。観客の少なさが熱気の乏しさにもつながっていた。せっかく設備のいいホールで、長時間にわたる学校対抗というおもしろい試みの上映会を企画したのだから、もっと宣伝して客を呼び込めなかったのか。もったいなかった。上映会中最も印象に残ったのは実は、京造アカデミー賞よりくり返し予告上映された『MADE IN JAPAN―こらっ!―』だった。司会の学生もこの映画を非常に熱を込めて宣伝していた。  しかし、何はともあれ何のトラブルもなくスムーズに上映が進み、スタッフの学生たちはほどほどに熱心で親切で、居心地のいいアットホームな上映会だった。最終的に京造アカデミー賞受賞作品は、来年2月に商業映画館(京都シネマ)で有料上映されることが決定している、どの作品が選ばれるか楽しみである。 第4回京都造形芸術大学映画祭  11月27日(土)~28日(日) 京都芸術劇場春秋座にて開催 11月27日(土)開場13時 開演13時30分高橋伴明監督『MADE IN JAPAN ~こらッ!~』京都プレミア上映 ・入江悠監督『SR サイタマノラッパー』特別上映 ・" MIJ × SR " Wトーク『それでも映画がスキなんです!』 ・ゲスト:松田美由紀(女優) 入江悠(映画監督) 11月28日(日)開場13時 開演13時30分京都造形芸術大学アカデミー賞 授賞式 ・トークバトル勃発!" 映画のプロ × 学生監督 " ・受賞作品上映 ・ゲスト:桝井省志(映画プロデューサー) 北條誠人(ユーロスペース支配人) 公式サイト http://www.kyozo-eigasai.com/ 《追加情報》 学生シネマ~第4回京都造形芸術大学映画祭クロージング企画~ 2011年2月12日(土)~18日(金)20時~22時 京都シネマにて開催 ※15日(火)は京都シネマ休館日のため休み 【上映作品】 ※第2回京都造形芸術大学アカデミー賞の受賞作 『APE』西中拓史監督(大阪芸術大学)… 最優秀作品賞 作品賞 監督賞 撮影/照明賞 『QULOCO』柴田有麿監督(京都造形芸術大学)… 作品賞 脚本賞 主演男優賞 『あんたの家』山川公平監督(大阪芸術大学)… 作品賞 『大好きなあやみちゃん』金子智明監督(京都精華大学)… 作品賞 主演女優賞 『wonderland’s cloudland!』片岡大樹監督(京都造形芸術大学)… 助演男優賞 録音賞 音楽賞 『無花果のはらわた』山本純子監督(京都造形芸術大学)… 助演女優賞 『ねずみとり』小岩洋貴監督(大阪芸術大学)… 美術賞 『愛のかたまり』三上梓監督(東北芸術工科大学)… 実行委員会特別賞 【上映プログラム】 ※変更になる場合あり 2月12日(土)『APE』(62分) 2月13日(日)『大好きなあやみちゃん』(60分)『QULOCO』(35分) 2月14日(月)『無花果のはらわた』(32分)『大好きなあやみちゃん』(60分) 2月15日(火)京都シネマ休館 2月16日(水)『あんたの家』(44分)『APE』(62分) 2月17日(木)『ねずみとり』(10分)『愛のかたまり』(6分)『wonderland’s cloudland!』(55分) 2月18日(金)『QULOCO』(35分)『あんたの家』(44分)