映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

■試写室だより『カンフー無敵』<br>どこか懐かしの日活無国籍風味、なれど……

 イップ・ウィンキン監督の『カンフー無敵』は、香港映画の新星、ヴァネス・ウーというアイドル的なスターを主役にした、『少林サッカー』『カンフーハッスル』に連なる香港活劇、という触れ込みのカンフー映画です。

 時代設定は1940年代の上海。

 ヴァネスは自分と同じように生まれつき超人的なバカ力を持った、まだ会ったこともない父を探し歩き、抗争相継ぐ街を訪れてそこで暴れ回りますが、街を牛耳るボス一派に対抗しているある奇妙な料理店の一群と知り合い、次第にさらにその抗争に巻き込まれていく……というのが主な筋立てです。

 確かにこのヴァネス・ウーは必死にスタント無しの体当たりアクションに挑戦しているようだし、脇の重要な役に先頃『カンフーハッスル』で復活した、あのかって倉田保昭と競演し、70年代の香港アクションスターとして『必殺ドラゴン 鉄の爪』や『帰って来たドラゴン』などに出ていたブルース・リャンがカンフーアクションを見せている……などなどちょっと魅力的なところもあります。

 しかしながらどうにも型通りで、もう一つ弾けない古臭いカンフー活劇映画という印象が否めない出来ではあります。

 それは『カンフーハッスル』やジャッキー・チェンの未だ躍動し続ける近年の傑作『香港国際警察』や『プロジェクトBB』などにも健在な、カンフーアクションシーンの随所に挟みこまれる小さなアイデアの積み重ねのような小技があまり重要視されていないのと、ちょっとアイデア不足なところがあるからでしょう。

 ワイヤーアクションにせよ、ソコソコには頑張っていますが、もっと思い切りやればいいのに、どうにもソコソコで終わってしまっています。

 もうちょっとアクションにアイデアを盛り込んだり、捻りを効かせたりワイヤーアクションをMAXまで振り切ってしまえばアクションのテンポもよくなり、面白くもなったろうに……。

 ただこの映画にはカンフーアクション以外にも、ほとんどキッチュとしか言いようのない1940年代の上海を人工的に、まるで無国籍地帯のように造形した舞台装置の魅力があります。

 それはほとんどあの懐かしの日活無国籍アクションの風土のように人工的で、ちょっと可笑しい感じのテイストにまとめられているのですが、それがお話の古臭さとも相まって、なんとも奇妙な魅惑を生じさせているところがあります。

 ちょうどかっての日活で言うと、鈴木清順とまでは行かないものの、たとえば中平康キッチュなアクション喜劇や、柳瀬観の軽いおふざけぶり、または井田探の映画などの、いきなり人工チックで不気味な味わいがセットに浮上する無国籍風プログラムピクチャーなんかの感じを今時思い起こさせるところがあります。

 またその感じは人工的な極彩色豊かに歌い踊るエマ・ウォンのシーンや、街のボスに対抗している料理店にいる、それぞれに独自のカンフー技を会得した面々の個性にも出ているところがあります。

 そういう意味では、ちょっとしたヘンな魅力のある映画なのですが、しかしやはり先述したカンフーアクションシーンのアイデア不足と、そのもう一つ弾けないその型通りぶりがやはり残念、としか言いようのない一作でした。

            

Text by 大口和久(批評家・映画作家

カンフー無敵.jpg

(C)2006 My Way Film Co.,Ltd

『カンフー無敵』(2006年/香港/カラー/103分)

監督:イップ・ウィンキン

出演:ヴァネス・ウー、ラム・ジーチョン、ブルース・リャン、チャン・クォックワン、ティン・カイマン、リー・フィ、オウ・ケングン、ルイス・ファン、チャン・ジン、エマ・ウォン

原題:功夫無敵

配給:日本スカイウェイ n.s.w.

10月13日(土)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショーほか全国順次公開