映画芸術

脚本家荒井晴彦が編集発行人を務める季刊の映画雑誌。1月、4月、7月、10月に発行。2016年に創刊70周年を迎えました!書店、映画館、Amazon、Fujisanほかにて発売中。

■試写室だより『P2』<br>暗闇の限定空間で闘う男女は熱演しているが……。

 クリスマスイブにオフィスで残業をしていたアンジェラ(レイチェル・ニコルズ)は仕事を終えて地下2階の駐車場(P2)へ行くが、車のエンジンがかからない。

 車は動かず、アンジェラは地下1階へ行ってタクシーを呼ぶが、タクシーが到着しても出入り口がロックされていて外に出られない。

 結局タクシーは行ってしまい、その後彼女は真っ暗になった地下駐車場に取り残されてしまう。

 

 携帯も電波が届かず、不安にかられるアンジェラだが、突如何者かに背後から麻酔薬を嗅がされ気を失ってしまう……。

P2 メイン s.jpg

 

 ストーカー・監禁映画をホラー的に描いた、わりとストレートな逃亡・脱出劇だが、地下駐車場という狭い限定空間を使った設定のわりには、それがうまく生きているとは言い難い。

 暗闇の地下駐車場が女とストーカー的な男の追っかけを描くには少々広すぎるので、漆黒の閉鎖的限定空間の息苦しさというものがあまり伝わってこないのである。

 

 『ハイテンション』のアレクサンドル・アジャがプロデュースしているからか、車で何度も轢いて人体を壁に激突させるシーンや、眼を突き刺す場面などのスプラッタ描写は頑張っているものの(これが元でR-18指定となったのだろう)、肝心の男女の監禁、脱出、逃亡の描写が平板なのがいただけない。

 レイチェルと男との間で多少の駆け引きが描かれてはいるが、それが緊迫した現場での息詰まるサスペンスに成り得ていないのも辛い。

 

 また狂ったストーカー男の異常さや怖さも通り一遍の変態という感じでしかなく趣向が足りない。

 地下駐車場に警官が見回りにやって来るシーンも、もっと警官が猜疑心を光らせて男を追い詰めるだとか、レイチェルがすんでのところで助かりそうになるだとか、描き方によってはサスペンスフルな描写が可能な場面でも、無頓着な警官が見回りにやって来ただけという単調さである。

 ただ意外なことに、これだけ単調かつ平板で一本調子な映画なのに、次々と事態が展開し、連続的に畳み掛ける活劇にはなっているので退屈はしないのである。

 そこがこの映画の美点だろうか。

 とは言え、福居ショウジンの新作『the hiding -潜伏-』のようなテンションの高い活劇演出にはなっていないので、TVで見慣れたリアクション芸人主体のバラエティ番組でも見ているような気分にもさせられるのだが……。

 ヒロインのレイチェル・二コルズは気丈に熱演しているし、ストーカー男の芝居も、設定だって悪くないのに……なんとも残念な一作である。

text by 大口和久(批評家・映画作家

『P2』

監督/脚本:フランク・カルフーン    

製作/脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルヴァスール

出演:レイチェル・ニコルズウェス・ベントリー

配給:ムービーアイ

2007年/アメリカ映画/1時間37分

公式サイト http://www.p2-movie.jp      

5月10日(土)より、シアターN渋谷、銀座シネパトス他 全国ロードショー