幕末、徳川慶喜将軍の時代。妻夫木聡演じる主人公はお役も何も戴けていナイ暇な武士。お人よしの器用貧乏なタイプで、時代の流れに乗り切れていない無職、即ちニート。まぁ、よく考えるとニートだって悪者じゃないし、世間の波に呑まれた挙句の不器用人間なだけなのかもしれない、ニートだって辛いのよ……って脱線したけど、つまり映画『憑神』はニートの成長物語。
無職の男が学生時代にライバルだった男の出世を知って、そりゃあもう面白くないものだから、(お母上のおこずかいで)酒呑んで酔っ払った勢いで、神頼みをする。その発想がニートだよね。そもそも誰かにお願いする時はきちんとしないと感じ悪いはずだけど、酔っ払いの頼みにも関わらず、神様たちは律儀にやって来てくれる。ただ、頼んだ神様が悪かった。
やって来たのはありがた迷惑な3人の神様。でも一度口に出した言葉は撤回できない。困惑するニート武士の主人公、ブッキー。でもその困惑って、仏教の中でもあるけど、人が生きていくうえで避けては通れない苦しみ。そこに対面することで、主人公は知っていく、自分の笑顔の影にある他人の悲しみや、周囲の人に支えられている自分を。そうやってただのニートが、最後にスーパーニートになる。
メッセージはわかり易く、照れるくらいのクサイ台詞で説明してくれるし、そのお陰で台詞以外の描写に込められたであろう想いもスンナリと心に入ってくる。何より神様たちのありがた迷惑ぶりがおかしい。頭を使わずに気楽に鑑賞できる、娯楽作品だ。
人生最大のイベントである「死」。その時をプロデュースする死神は大役だ。そこに子役を持ってくるところが、ポイント高し。でも「子供の姿」と「子供」は違うのに、そこの線引きがシッカリとされていない。例えば、死神に全て答えを知っているかのように話をさせたり、「沈黙」を多く取り入れたらどんな映画になっていただろう。何千年も存在してこの世を見ている神様には、どうしても見えなかった。子役の死神に女っぽさがもう少しあったら、ブッキーとの見つめあいにも胸キュンできたかもしれないのに。まぁその歯がゆさも、面白かったけど。狙いなのかな。
ニートが悪い!とか、逃げることは悪いこと!とか言う映画じゃない。ニートな時もあるし、逃げたって良い。ただ、命は粗末に扱わないで、生きることを大切にしよう、例え短くても。生きる人が目指すべきは、武士道さながら、桜のように美しく咲き、美しく散ること。「死」を持って「生」の輝きを知る、ということなのだ。
最後に、米米CLUBのテーマ曲「御利益」、作品にあっていて凄くシックリきた。
♪ご・り・やく!!あ~ああぁ~♪
text by 小浜公子(ライター)
(C)2007「憑神」製作委員会
『憑神』
監督:降旗康男
撮影:木村大作
原作:浅田次郎
配給:東映
公式サイト:http://tsukigami.jp/index.html
全国公開中